精神科訪問看護に必要な「GAF尺度」とは?

近年、精神疾患を抱える患者様に対し、訪問看護サービスを提供される事業所が増えております。サービス提供事業所が増えているということは、それだけニーズが高いことを意味しているわけですが、精神科訪問看護サービスを提供する上では留意すべき点が結構あります。

今回のコラムでは、精神科訪問看護療養費を算定する上で必要な「GAF尺度」について、その定義や考え方、評価方法、そして療養費請求をする上での注意点等について解説いたします。

GAFとは?

GAFとは、Global Assessment of Functioningの略される英語です。日本語では「機能の全体的評定尺度」を意味します。「ギャフ」といったり「ガフ」といったりします。

一般的には成人の社会的・職業的・心理的機能を評価するのに用いられており、特に精神科訪問看護においては精神疾患患者の日常生活における数値スケールとなります。

このスコアは「1点〜100点」で評価され、点数が高いほど、精神面での健康状態が良いことを示します。

GAFの評価方法とは?

先程も申し上げた通り、GAFは主として精神疾患をお持ちの方を対象に、その方の滲状生活の様子について数値化して評価するツールです。

では、GAFの評価は具体的にどのようにすればよいのでしょうか。

厚生労働省にて、GAFの評価・判定方法について指針がありますので、ご紹介いたします。

GAFスコア100-91

広範囲の行動にわたって最高に機能しており、生活上の問題で手に負えないものは何もなく、その人の多数の長所があるために他の人々から求められている。症状は何もない。

GAFスコア90-81

症状がまったくないか、ほんの少しだけ(例:試験前の軽い不安)、すべての面でよい機能で、広範囲の活動に興 味をもち参加し、社交的にはそつがなく、生活に大体満足し、日々のありふれた問題や心配以上のものはない (例:たまに家族と口論する)。

GAFスコア80-71

症状があったとしても、心理的社会的ストレスに対する一過性で予期される反応である(例:家族と口論した後の集中困難)、社会的、職業的または学校の機能にごくわずかな障害以上のものはない(例:学業で一時遅れをとる)。

GAFスコア70-61

いくつかの軽い症状がある(例:抑うつ気分と軽い不眠)、または、社会的、職業的または学校の機能に、いくらかの困難はある(例:時にずる休みをしたり、家の金を盗んだりする)が、全般的には、機能はかなり良好であって、有意義な対人関係もかなりある。

GAFスコア60-51

中等度の症状(例:感情が平板的で、会話がまわりくどい、時に、恐慌発作がある)、または、社会的、職業的、 または学校の機能における中等度の障害(例:友達が少ない、仲間や仕事の同僚との葛藤)。 

GAFスコア50-41

重大な症状(例:自殺の考え、強迫的儀式がひどい、しょっちゅう万引する)、または、社会的、職業的または学校の機能において何か重大な障害(友達がいない、仕事が続かない)。

GAFスコア40-31

現実検討か意思伝達にいくらかの欠陥(例:会話は時々、非論理的、あいまい、または関係性がなくなる)、または、仕事や学校、家族関係、判断、思考または気分、など多くの面での粗大な欠陥(例:抑うつ的な男が友人を 避け家族を無視し、仕事ができない。子どもが年下の子どもを殴り、家で反抗的で、学校では勉強ができない)。

GAFスコア30-21

行動は妄想や幻覚に相当影響されている。または意思伝達か判断に粗大な欠陥がある(例:時々、滅裂、ひどく不適切にふるまう、自殺の考えにとらわれている)、または、ほとんどすべての面で機能することができない (例:一日中床についている、仕事も家庭も友達もない)。

GAFスコア20-11

自己または他者を傷つける危険がかなりあるか(例:死をはっきり予期することなしに自殺企図、しばしば暴力的、躁病性興奮)、または、時には最低限の身辺の清潔維持ができない(例:大便を塗りたくる)、または、意思伝達に粗大な欠陥(例:ひどい滅裂か無言症)。 

GAFスコア10-1

自己または他者をひどく傷つける危険が続いている(例:何度も暴力を振るう)、または最低限の身辺の清潔維持が持続的に不可能、または、死をはっきり予測した重大な自殺行為。

GAFスコア0

情報不十分

訪問看護ステーションが精神科訪問看護を提供する場合に、当該患者様に対して上記のj観点から評価を行うことになるわけです。

また、厚生労働省では、GAF尺度の評価について以下を念頭に置きつつ行うべきであることを掲げております。(なお、先に触れましたGAXの評価方法も含め、引用元については本コラムの最後にご紹介します)。

A)日常生活あるいは社会生活において必要な「援助」とは助言、指導、介助などをいう。

B)保護的な環境(例えば入院しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。 

C)判断は長期間の薬物治療下における状態で行うことを原則とする。 

精神科訪問看護療養費を算定する場合の留意点

精神科訪問看護療養費を算定するにあたり、適切かつ効果的な訪問看護の提供を推進する観点から、利用者の状態把握等を行うことが可能となるよう、2020年診療報酬改定においてGAF尺度による評価を算定の要件として義務づけられました。

具体的な運用としては下記の通りです。

精神科訪問看護療養費を算定に必要なGAF尺度による算定の要件

・精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)又は(Ⅲ)を算定した場合は、「特記事項」欄の「10 GAF」の数字を○で囲み、当該月の初日の指定訪問看護時におけるGAF尺度により判定した値と、判定した年月日をあわせて記載すること。

・ 初日が家族への訪問看護であった場合は、利用者本人に訪問看護を行った初日に判定を行うこととし、家族への訪問看護のみの月については「家族への訪問看護でありGAF尺度による判定が行えなかった」旨を記載します。 

精神科訪問看護療養費の算定において、GAFスコアと判定日の記載に不備があると返戻になってしまうため、請求を担当される方も含めて注意が必要です。

(参考)2024年診療報酬改定において「GAF」に関連する事項

こちらはGAF評価に直接関係するものではありませんが、今般の診療報酬改定において「訪問看護管理療養費(月の2回目以降)」の報酬額が2区分に設定されることになりました。

それぞれの区分の算定要件に、GAFに関連する内容が盛り込まれましたのでご紹介いたします。

【訪問管理療養費(月の2回目以降)】

訪問看護管理療養費1 3000円/日

訪問看護管理療養費2 2500円/日

※「訪問看護管理療養費1」の算定要件(訪問管理療養費2の要件は省略)

訪問看護ステーションの利用者のうち、同一建物居住者の利用者が7割未満であって、次のイorロに該当するものであること

イ 別表七の者及び別表八の者に対する訪問看護について「相当な実績を有する」こと。

ロ 精神科訪問看護基本療養費を算定する利用者のうち、GAFスコア「40 以下」の利用者が「月に5人以上」であること。 

まとめ

今般の訪問看護に関連する診療報酬改定において、「一般在宅(施設ではない)への訪問を積極的に行わない」「身体的・精神的重症者へのサービスを積極的に訪問しない」ステーションにおいては報酬を減額するという形となったわけです。

GAF尺度の定義や評価方法とは直接関係しないものの、一応関連する情報としてお伝えいたしました。

精神科訪問看護の記録や報告書、療養費の明細書等に、GAF尺度の記載は必須となります。適切に評価することで、利用者様の心身の状態変化や重症度の有無について客観的に課題を抽出することができ、それを計画に落とし込んだ上で適切なケアに活かすことができるはずです。また、療養費請求の際にしっかりレセプトに記載することにより、返戻を防ぐことにもつながります。

私たちは訪問看護ステーションとして、このことに十分留意の上対応していきたいと考えております。

今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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