訪問看護の「オンコール」について

「地域包括ケアシステムの深化」が叫ばれて久しい中で、訪問看護ステーションの存在はますます重要性が増してきています。

私たち訪問看護師やセラピストも、その重要性を肌で感じながら毎日訪問しております。

在宅で療養されている利用者様の中には、いつ何時急変するかわからない状況の方もいます。そのような場合に備え、多くのステーションでは「オンコール体制」を採用し緊急時に備えていることと思われます。私たちも同様です。

しかし、オンコールは訪問看護師にとって負担も大きく、ステーションとしても体制構築と看護師の負担軽減に最大限努めることが求められます。

今回は、訪問看護におけるオンコールについて、その定義や考え方、負担軽減の方法などについて取り上げます。

今後、訪問看護師として働いてみたい!とお考えの方には、ぜひお読みいただきたいと考えます。最後までお付き合いくださいませ。

本日のテーマ

オンコールとは、24時間365日の緊急対応が可能となるような体制を構築し、緊急対応が求められた際に連絡を受け、必要に応じて関係機関との連絡調整をし、利用者様宅へ訪問しサービスを提供することです。

「コール」という言葉の通り、利用者様やご家族からの緊急要請の連絡を受けることが出発点ですが、実際はそれだけに留まりません。当然ながら利用者様宅へ出動することもあります。

そこで適切な対応をするわけですが、緊急性が高い場合は利用者様の主治医へ連絡して指示を受け、救急搬送の手配をすることもあります。

そして、オンコールを割り当てられた看護師は、その日に対応した記録も行うことになります。

オンコールは、単に連絡を受けるだけではなく、非常に大変なお仕事であるといえます。

なぜ「オンコール」が必要なのか

冒頭にも述べました通り、近年訪問看護ステーションの必要性は非常に高まっています。その大きな理由が、入院医療機関の「在院日数の短縮」です。

詳しい説明は割愛しますが、入院病床を持つ医療機関には、一昔前のようないわゆる「社会的入院」は基本的に許されません。急性期において短期間で治療をし、在宅へ退院させることが強く求められています。これがなされないと、医療機関側の診療報酬は大きく減ることとなります。社会保障費の膨張を極力小さくするためには、ある意味やむを得ない話ではありますが・・・

在院日数を極力短くし、患者様を「自宅」へ退院していただくためには、退院後の療養生活を支援するサービスの担い手の存在が欠かせません。
その肝になるのが在宅療養支援診療所であり、訪問看護ステーションの存在といえます。
居宅ケアマネさんやヘルパーさんの存在も重要なのは至極当然として、特に医療依存度の高い方が在宅療養するとなれば、訪問看護師の重要性が高いのは自明でしょう。

上記の観点から、利用者様訪問看護ステーションはご利用者の急変や緊急時などに備えて、24時間365日緊急対応ができるよう体制を整えていく必要があり、その具体的なオペレーションが「オンコール」となるわけです。

訪問看護ステーションによる「オンコール」の実態

では実際に、日本の訪問看護ステーションにおける「オンコール」の実態はどのようになっているのでしょうか。

厚生労働大臣の諮問機関で、介護報酬改定の詳細について議論される「社会保障審議会介護給付費分科会」において公開された資料がありますので、引用の上紹介いたします。

上記の資料によりますと、介護保険において「緊急時訪問看護加算」を算定されている事業所は8割を超えています。

重篤化したご利用者様が在宅療養するケースが増えているわけですから、これは時代の要請であるとも言えるでしょう。

※上記は2024年介護報酬改定前の情報となっております。

「オンコール」の具体的な仕事内容は?

前述した通り、訪問看護ステーションにおいて、利用者やそのご家族が安心して生活できるようにオンコールを採用しているケースが多く、主たる業務内容についてもご紹介した通りです。

ここでは、オンコールの具体的な業務の内容について掘り下げてみましょう。

オンコールを採用するステーションでは、月ごとにシフトを組んでいるところが大半でしょう。当番に割り当てられた看護師は、自宅などで待機することになります。

オンコール待機中は、いつでも電話対応ができるように準備しておきます。そのためには、肌身離さず携帯電話を持っておくか、コールに気づく場所に置いておき、いつでも対応できる態勢にしておくことが必要です。

必ずしも訪問する必要はなく、利用者様やご家族からの問い合わせ(電話)に対応します。

緊急性がそれほど高くない場合であれば、電話対応で済むことが多いです。

ただし、緊急性が高い場合はそうもいきません。

当該利用者様宅への緊急訪問や、看取りの場に立ち会ったりすることも出てきます。医療依存度の高い方、1人暮らしの利用者様が多い場合は、オンコールの頻度や実際に訪問する回数はおのずと増えてくるでしょう。

オンコールに割り当てられた時間帯において、その状況や具体的な対応内容について記録をして、業務は終了となります。

オンコール対応の留意点

まず、オンコール当番の前日位から、極力無理のない生活を過ごすことが重要です。深酒は避け、睡眠も可能な限りとって体調を整える必要があります。

オンコールの出発点は「いつ連絡が来ても対応できる態勢をつくること」です。緊急コールが入っているのに、それに気づかずに見過ごしてしまってはどうにもなりません。

普段マナーモードやサイレントモードにしている方は、電話に気付くように設定しておく必要があります。スマートフォンなどの端末も、バッテリーが切れてしまわないように充電します。

オンコール専用の携帯電話を貸与するステーションも多いですが、その機種がプライベートの端末と異なる場合、操作に慣れないためにスムーズに使えないという問題点も生じかねません。操作方法は事前に確認しておくことも必要です。

オンコール待機中の過ごし方ですが、「いつ連絡が入っても迅速な対応ができる状態」であれば、特に制限はないと思って差し支えありません。

では「迅速な対応に支障を来たす状態」とは、どのような状態なのでしょうか。 1つは「待機場所」です。

外出については、特に制限がかけられているわけではありませんが、緊急時の対応に備えて、職場までおおよそ30分で移動できる距離にいることが求められるでしょう。

職場や自宅からあまりに離れてしまうような外出はお勧めできません。利用者様宅への緊急訪問の場合、待機場所から直接向かうこともあると思われますが、総合的に勘案すると、当該看護師の自宅で待機することが無難です。

もう1つは「過ごし方」です。

オンコール当番中に飲酒することは、常識的に考えてもNGでしょう。

オンコール対応時間中は、入浴も就寝もOKですが、連絡があった場合に備えて枕元等に端末を設置し、いつでも電話に出られる態勢を取る必要があります。

日によっては、緊急コールが数回にわたってかかってくることもあるでしょう。

緊急対応中に、別件のコールがかかる場合も考えられます。当然その場合はお待たせしてしまうことになりますが、これはやむを得ませんね。

利用者様との契約時等で、オンコール中に別件対応が重複した場合はお待ちいただくこともある等、事前に説明しておくとよいでしょう。

オンコールの頻度、処遇はどうなっているか

上記スライドは、前述の介護給付費分科会資料を抜粋したものですが、実際に電話等で相談があった回数は16.7回/月となっています。

そのうち、早朝・夜間は7.5 回/月、深夜は2.5回/月、休日は6.7回/月 となっています。

相談の理由や内容はさまざまです。

体調や病状に関する問い合わせが7割を超える一方で。必ずしも緊急性を要しない相談(例:訪問日時の確認・時間変更等)も一定数存在しています。

オンコール勤務の頻度は、職場にオンコール対応可能な看護師が何名在籍しているかによって変わってきます。 看護師を潤沢に配置できるステーションはそれほど多くはなく、ほとんどのステーション(私たちもそうですが)でオンコール担当の配置には苦労されていることと存じます。

利用者様やご家族は、夜間や早朝などで不安なことがあると、ケアマネや看護師に相談するというケースはよくあります。

連絡していただくこと自体は問題なく、不安なことがあればむしろ積極的に連絡していただきたいところですが、一方で急を要さない連絡は日中に行っていただく等、事前の説明は必要かもしれません。

このような取り組みにより、看護師の業務負担を軽減することが期待できます。

オンコールに対する処遇については、ステーションによってまちまちではありますが、概ね1,000〜3,000円/回が相場のようです。オンコールの呼び出しで緊急時に出勤したときは、時間外の時給制、または定額の手当が支給するケースもあります。

オンコールの負担軽減について

上記のスライドは、24時間対応体制を確保する上での課題と、負担軽減への取り組みに関する資料です。

看護師が負担に感じている「課題」としては、やはり「精神的・肉体的負担(88.1%)」がトップに上がります。続いて「休日対応する人員が少なく、負担が偏る(66.3%)」が続きます。

このような課題が根深いこともあり、事業者としても訪問看護師の採用に支障を来たしているという実情もあります。非常に由々しき問題です。

負担軽減に向けての取り組みとしては、「ICTの活用(66.2%)」「翌日の勤務体制の調整65.8%)」などが上位に入ります。オンコール当番の翌日は半休にするなど、身体的負担にならないような配慮をされているところが多いようです。ICTについても、上手に活用することによって出動回数が減られる等が期待できそうです。

同時に分科会では、「勤務間インターバル制度」についても言及していますが、実際は導入するステーションは21.6%多くないようです。

このことを受け、今般の介護報酬改定・診療報酬改定においては、24時間対応体制の負担軽減に関する指針を打ち出しました。

なかでも、「緊急時訪問における看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制の整備」を行う事業所に対し、介護保険の「緊急時訪問看護加算」を手厚くする(600単位/月)ことや、マニュアル作成・シフト体制の整備などをした上で届出をした事業所に対して、オンコール業務の一部を「看護師等以外の職員」に担わせることを認めることなどが盛り込まれました。

この施策が、オンコールの負担軽減が完全に実現する「特効薬」になるわけではないですが、ステーションとしてはありがたい改定内容かと思います。

まとめ

前述した通り、オンコール勤務は肉体的、精神的にも大変ではあります。

しかし訪問看護師にとって容体変化、看取りなど、さまざまな場面で対応することは、スキルアップのための貴重な経験蓄積にもつながります。

それを実現するためには、看護師の採用や業務改善等が必要になってくるかもしれません。私たちも、そうなることを目指して日々取り組んでいるつもりです。

今回は「訪問看護におけるオンコール」について取り上げましたが、今般の報酬改定における合言葉の一つに「生産性の向上」があります。

事業者として「業務ことを願い、いろいろと対策を講じていきたいですね。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

次の投稿をどうぞお楽しみに!

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