訪問看護における「退院時共同指導加算」とは?

超高齢社会に向けて、医療と介護の連携強化が求められて久しいですが、そうした流れの中で注目を集めている加算のひとつに「退院時共同指導加算」があります。医療・介護連携の強化に向けて、退院時共同指導加算の取得を検討している訪問看護事業所の経営者も多いことでしょう。

この記事では、退院時共同指導加算の算定要件や注意点などを詳しく解説していきます。

ぜひ最後までお付き合いくださいませ。

退院時共同指導加算とは?

退院時共同指導加算が、地域の訪問看護ステーションと医療機関との連携強化を評価するために創設された加算です。この加算は、ご利用者様が病院から退院する際に「退院前カンファレンス」等で訪問看護ステーションと病院が連携し、退院後の在宅療養に関する指導を行った場合に、訪問看護ステーション側が算定できます。

入院患者の在宅復帰を支援するためには、医療機関と地域の介護サービスとの連携が重要不可欠になります。これは、地域包括ケアシステムの基本といっても過言ではあります。在宅生活を支援する訪問看護ステーションと医療機関との連携を強化することで、患者がより早期に退院して在宅生活を送れることが期待できます。

退院時共同指導加算は、医療保険と介護保険の両方で算定できます。それぞれ、算定単位数などが異なりますので、ここで詳しく解説いたします。

退院時共同指導加算の算定要件と単位数(介護保険)

介護保険における退院時共同指導加算は、病院等から退院(もしくは退所)する利用者に対して、入院(もしくは入所)していた病院等のスタッフと共同で指導を行った際に算定できる加算です。

ここでは、介護保険(介護予防訪問看護も同様)の退院時共同指導加算の算定要件や注意点などについて解説します。

単位数

600単位/回

対象者

病院等の医療機関や介護老人保健施設等の入所系施設から退院(もしくは退所)する利用者

算定要件

・病院等の医療機関や介護老人保健施設など入所系施設から退院(もしくは退所)する利用者に対して、病院等の医師もしくはその施設の従業者と共同して療養上の指導を行う。

・退院時共同指導の内容を文書によって提供する。

・退院(もしくは退所)後に訪問看護サービスを実施する。

・退院時共同指導の内容を訪問看護記録書に記録する。

介護保険にて「退院時共同指導加算」を算定する際の注意点

介護保険の退院時共同指導加算を算定する場合、注意しなければいけない点がいくつかあります。ここでは、算定できる回数の注意点と複数の訪問看護ステーションが算定する場合の注意点、テレビ電話を活用した場合の注意点について解説します。

まず注意しなければいけないのは、加算を算定できる回数です。退院時共同指導加算は、退院(もしくは退所)後の1回目に訪問した訪問看護の所定単位数に加算できます。そのため、原則として1回の退院(もしくは退所)につき、1回のみ算定可能です。

ただし、気管カニューレの使用などの特別な管理を必要とする方については2回算定することもできます。

「特別な管理を必要とする方」の要件

在宅麻薬等注射指導管理

在宅腫瘍化学療法注射指導管理

在宅強心剤持続投与指導管理

在宅気管切開患者指導管理

気管カニューレや留置カテーテルを使用している状態

在宅自己腹膜灌流指導管理

在宅血液透析指導管理

在宅酸素療法指導管理

在宅中心静脈栄養法指導管理

在宅成分栄養経管栄養法指導管理

在宅自己導尿指導管理

在宅持続陽圧呼吸療法指導管理

在宅自己疼痛管理指導管理

在宅肺高血圧症患者指導管理

人工肛門、人工膀胱の設置

真皮を越える褥瘡

週3日以上の点滴注射

退院時共同指導加算を算定できる事業所は1事業所のみです。そのため、複数の訪問看護ステーションが退院時共同指導に関わる可能性がある場合は、主治医の所属する医療機関等に他事業所の算定状況を確認するとよいでしょう。

ただし、退院時共同指導加算を2回算定できるご利用者様に対しては、取り扱いが変わります。この場合で複数の事業所が退院時共同指導を行う際には、各事業所で1回ずつ算定することも可能です。

2021年の介護報酬改定で、退院時共同指導を実施する際に「テレビ電話等」を活用できるようになりました。テレビ電話を活用することで、より退院時共同指導加算を算定しやすくなることが期待できます。

ただし、退院時共同指導を実施する際にテレビ電話装置等を活用する場合は、個人情報ガイドラインに従って、ご利用者やご家族の同意を得なければいけません。必ず事前に内容や目的について説明し、同意を得ておきましょう。

退院時共同指導加算の算定要件と報酬額(医療保険)

医療保険で算定できる退院時共同指導加算は、主に病院等から退院(もしくは退所)する利用者に、訪問看護ステーションのスタッフが入院していた病院等の医師やスタッフと共同して指導を行うことで算定できる加算です。
ここでは、医療保険の退院時共同指導加算の報酬額、算定要件や注意点について解説します。

報酬額

8,000円/回

対象者

病院等の医療機関や介護老人保健施設等の入所系施設から退院(もしくは退所)する利用者

算定要件

・病院等の医療機関や介護老人保健施設など入所系施設から退院(もしくは退所)する利用者に対して、病院等の医師もしくはその施設の従業者と共同して療養上の指導を行う。

・退院時共同指導の内容を文書によって提供する。

・退院(もしくは退所)後に訪問看護サービスを実施する。

・退院時共同指導の内容を訪問看護記録書に記録する。

医療保険の退院時共同指導加算を算定する際の注意点

医療保険の退院時共同指導加算を算定する場合の算定要件や注意点などは、介護保険の場合とほぼ同じといってよいです。ただし、2回算定ができるための要件(対象疾患)が少し異なりますので、その点に注意しましょう。

医療保険の退院時共同指導加算を算定する場合、「厚生労働大臣が定める疾患等」の利用者については、2回の算定が認められています。

介護保険で2回の算定が可能となる「特別な管理が必要な利用者」と、医療保険で2回の算定が可能となる「厚生労働大臣が定める疾患の患者」は、対象者が異なるため注意しておきましょう。

「厚生労働大臣が定める疾患の患者」の要件

末期の悪性腫瘍

多発性硬化症

重症筋無力症

スモン

筋萎縮性側索硬化症

脊髄小脳変性症

ハンチントン病

進行性筋ジストロフィー症

パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上であって生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る))

多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレ―ガー症候群)

プリオン病

亜急性硬化性全脳炎

ライソゾーム病

副腎白質ジストロフィー

脊髄性筋萎縮症

球脊髄性筋萎縮症

慢性炎症性脱髄性多発神経炎

後天性免疫不全症候群

頚髄損傷

人工呼吸器を使用している状態

特別管理指導加算の対象者

退院時共同指導加算算定の留意点

よくあるご質問

医療保険と介護保険の両方で算定できますか?
医療保険と介護保険の併用はできません。
(介護保険の場合)訪問看護初回加算との併算定は可能ですか?
訪問看護初回加算を算定する場合、退院時共同指導加算を同時に算定することができません。
(医療保険の場合)退院時共同指導加算と退院支援指導加算は同時に算定可能ですか?
退院時共同指導加算と退院支援指導加算は同時に算定できます。なぜなら、指導が行われる日程と場所が異なるからです。退院支援指導加算とは、医療機関から退院する患者に対して、訪問看護ステーション等が在宅療養上必要な指導を行うことで算定できる加算です。

※医療保険の場合、退院日当日の療養費算定はできないため、その代わりに算定する加算が「退院支援指導加算」です。

退院時共同指導加算は「退院前」に指導を行うことで算定できる加算ですが、退院支援指導加算は「退院日」に指導を行うことで算定できる加算です。また、退院時共同指導加算は「入院施設」で指導が行われるのに対して、退院支援指導加算は「在宅」で指導を行います。
どちらの算定要件も満たしていれば、退院翌日以降初日の訪問看護療養費の算定時に、両方の加算を算定することができます。
加算の算定に必要な文書の内容とは?
退院時共同指導加算を算定する場合、文書を作成する必要があります。この文書は、行政から決まった書式を提示されていないため、何を書けばよいのかわからない方も多いでしょう。
退院時共同指導実施時の文書に記載すべき項目については以下の4つです。

①実施日(指導実施日)
②共同指導の実施者
③退院後の療養生活に係る指導や診療の継続に係る指導
④初回の訪問予定

退院時共同指導を実施した際には、上記の内容を盛り込んだ文書を作成し、事業所内で保管しておくとよいでしょう。
今後、高齢者がさらに増加していくことを考えると、医療機関からの早期退院と地域での在宅生活支援強化が求められていきます。上記を念頭に置き、負担のない範囲で算定しましょう。

まとめ


訪問看護ステーションと医療機関が密に連携をとって、患者の在宅生活を支える取り組みを評価する加算が「退院時共同指導加算」です。
退院時共同指導加算は、介護保険と医療保険の両方で算定できますが、細かい算定要件や単位数(報酬額)に違いがありますので、注意が必要となります。

厚生労働省は、今後の超高齢社会に対応するための要点として「医療と介護の連携強化」を挙げています。その観点からも、退院時共同指導加算を積極的に算定することを国は期待しているといっても過言ではありません。

訪問看護ステーションを運営される皆様が、医療・介護の連携を強化していくことで地域からの指示を受け、ひいては事業所運営がよい方向となるために、本コラムが少しでもお役に立てばうれしく存じます。

今回も最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

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