介護事業運営において知っておくと便利!~補助金と助成金の違いと活用の留意点~

コロナ禍が落ち着いたものの、不確実性の高い情勢の中で介護事業所の経営環境も厳しくなってきています。

そのような中で、国や自治体等から支給される「補助金」や「助成金」が、近年大変注目されております。

本コラムでは、原則返済不要と言われる「補助金」「助成金」(以下、総称する場合は「補助金等」。)について、その違いや特徴、申請や受給に関する留意点等を解説してまいります。

補助金・助成金とは?

国や地方公共団体が予算をつけ、一定の事業や取り組みを行う企業等に対してお金を支給することです。

補助金と助成金は類似する部分も多いものの、厳密には相違点もかなりあります。

以下、補助金等の共通点と相違点について説明します。

補助金と助成金の共通点

① 財源が公費であること
補助金等の財源は基本的に「公費」です(一部、民間主催の補助金等もあります)。
助成金は厚生労働省管轄のものが多く、その財源は「社会保険料」です。これに対し、補助金は経済産業省管轄のものが多く、その財源は「税金」となります。
年度予算に基づいて配分され、その範囲内で支給されます。
予算には限りがあります。補助金等によっては継続されるものもあれば、当該年度で終了となるものもあります。

② 原則「返済不要」であること
銀行融資と異なり、補助金等は適正に受給している限り、返済が不要ですし利息も課されません。
ですので、企業にとって補助金等は「収入」となります。

補助金と助成金の相違点

助成金の場合、受給要件を満たし、期日までに申請し受理されれば、原則として支給されます。

これに対し、補助金の場合は採択枠が決まっていて、申請に問題がなくても不採択となる可能性があります。

また、それぞれの目的や給付額も異なります。

助成金は「雇用や労働環境の改善」が主目的であるのに対し、補助金は「新規事業の支援や地域振興、公益につながる事業の促進」が主たる目的になります。給付額にも違いがあり、助成金は数十万~数百万程度が大半ですが、補助金は数千万から数十億円にまで及ぶものもあります。

※中には「補助金」「助成金」の区別が明確でないものも存在しますので、申請にあたっては公募要項を熟読し、対応する必要があります。

補助金・助成金の申請から受給までの流れ

公募(公募要領の公開・告知・募集の開始)

該当の補助金の事務局から、公募要領(募集期間や申請条件等)が発表され、募集が開始されます。期限や募集要件などをしっかり確認しましょう。

申請準備(申請書作成)

公募要領に則って、申請書の準備及び作成を行います。外部機関の確認・承認や電子申請のための登録が必要な場合も多いので、申請の準備は早めに開始されることをお勧めします。同じ補助金でも、募集回によって条件等が変わることがあります(コロナ関連の補助金では実際そうでした)。

補助金申請

実際に補助金申請を行います。

近年では電子申請が主流になっていますので、申請方法やデータ形式等を確認しましょう。ここで手間取ってしまい、期日に間に合わなくなるケースもありますので、注意が必要です。

採択通知

申請に対して審査が行われ、審査結果が発表されます。審査を通過することを「採択」といいます。採択された場合には、事業の開始に向けて諸々の指示を受けることになります。

補助対象事業実施

いよいよ補助対象事業の開始です。「補助事業」とは、補助金・助成金の内容に基づいた事業(機器の購入、就業規則の整備や賃金改定等)を実施することです。

採択された事業計画に則って、事業を開始します。補助金の対象となる事業期間は決して長くないため、速やかに事業に取りかかる必要があります。

また「補助対象期間」というものがあり、この期間外に事業を行った場合は補助金等の対象になりません。

補助金・助成金によっては、状況の報告を求められることや、事務局による中間監査が入ることがあります。

実績報告

補助金の支払いを受けるためには、定められた期間に事業の実績報告を提出する必要があります。実績報告に対しては事務局の細かいチェックが入り、不備があれば何度でも補正することになります。実績報告が認められるまで、当然ながら補助金の支払いは実行されません。

精算払請求

実績報告が完了すると、事務局から通知がなされ、補助金の請求を行うことになります。

補助金支払い

補助金の請求に基づき、実際に補助金が支払われます。

事業化状況報告

補助金が支払われた後も、事業のその後の進捗を所定年数、報告する義務が課される場合があります。

代表的な補助金・助成金

補助金等は、ほとんどの場合「厚生労働省」と「経済産業省」が管轄しています。

厚生労働省の場合、雇用関係や医療福祉・公衆衛生に関する事業等を、補助金等の支給対象としております。代表的なものとして「キャリアアップ助成金」「雇用促進助成金」「トライアル雇用助成金」等があります。

雇用関連の助成金は、介護保険における「介護職員等処遇改善加算」や医療保険の「ベースアップ評価料」に親和性が高いと考えられます。従業員のスキルを向上させる仕組み、従業員の負担軽減、賞与や退職金の充実を図るための施策を講じる上で、これらの助成金の活用は大変有益でしょう。

これに対し経済産業省では、企業の発展や事業拡大等を支援することを目的に、対象となる事業を支給対象にしています。代表的なものに「小規模事業者持続化補助金」「事業再構築補助金」「IT導入補助金」等があります。

2024年介護報酬改定・診療報酬改定において、事業所に対し「生産性の向上」を掲げています。

なぜなら、これからますます高齢者が増える中で、それに見合った介護人材の増加はなかなか見込めず、かつ社会保障費の有限であることから、それを踏まえて収益を上げていく必要があるからです。

限られた人員でも、これまで以上に収益を上げて経営を維持するためには、生産性の向上は避けて通れません。

上記の観点から、特に介護事業においては「IT関連」の補助金や助成金が注目です。

上述した「IT導入補助金」は、まさに介護事業の生産性向上にはうってつけの補助金です。

LIFEの導入や介護請求ソフトの切り替え等にも、IT導入補助金は役に立つでしょう。

IT関連の支援は、国の施策だけでなく自治体でも取り組まれています。

例えば東京都では「デジタル機器導入促進支援事業」、大阪府では「ICT導入支援事業」、広島県では「介護テクノロジー定着支援事業」、福岡県では「ICT導入支援事業費補助金」などがあります。

皆様の地域にもこのような施策があるか、ぜひお調べになられてはいかがでしょうか?

補助金・助成金の活用を検討するにあたっての留意点

①申請はお早めに

申請期間は短いケースが多いため、迅速に情報をキャッチし早めに申請手続きをする必要があります。

申請書類に不備がある場合、修正を求められますし、最悪不採択となってしまいます。また、予算には限りがあるため、期間中でも終了となる場合もありますので、注意しましょう。

②事業期間が存在する

補助金等は、「事業期間」が設けられている場合が大半です。

期間外に支出した費用等は、補助金等の対象外となる可能性がありますので、留意が必要です。

③補助金等は実績報告に基づき「後払い」される

補助金等は「後払い」が大前提です。

要は、補助金支給までにかかった費用は「立替払い」となるということです。従って、資金繰りが必須であることを十分認識しなければなりません。

事業終了後には実績報告として、報告書類や証票等の提出が必要になります。この手続きを経て、ようやく支給されるわけです。不備があると支給が遅れるばかりか、最悪の場合支給されない可能性もありますので、注意しましょう。

④不正受給は「犯罪」である

万一虚偽の申請や実績報告が判明した場合、処罰の対象となり得ます。

コロナ禍の目玉施策であった「持続化給付金」において、不正受給が多発しました。

持続化給付金の不正受給者は2272者、総額は約23億1128万0680円(経済産業省調べ)でした。

不正受給は絶対に許されないことを、肝に銘じておきましょう。

まとめ

補助金・助成金は、銀行融資と異なり「返済不要」の資金調達手段です。

上手に活用することで、多額な自己資金をかけることなく物品・機器等の調達をすることが可能ですし、労働環境の改善(賃金・退職金などの整備)の可能になるでしょう。

しかし、補助金・助成金の申請は簡単ではありません。「絶対にもらえる」という保証もないものです。近年では不正受給について国や自治体も目を光らせ、発覚した法人には重大なペナルティが課せられます。

今後、補助金・助成金の申請をご検討される場合は、お知り合いの社会保険労務士(助成金関連)や中小企業診断士(補助金関連)等の専門家に相談されることをお勧めします。商工会議所・商工会も企業の「応援団」として頼りになるでしょう。

介護報酬に全面的に依存するのではなく、上手に補助金・助成金を活用することにより、新たなビジネスチャンスが模索できるかもしれません。国や自治体もそのようなチャレンジングな企業を後押しする傾向が強いです。

貴法人・事業所の更なる発展に向け、本コラムが少しでもお役に立てばうれしく存じます。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です