こんにちは!
訪問看護ステーションに限らず、例えば訪問介護やデイサービスなどを運営する介護事業所において、遵守しなければならないことはたくさんあります。
基準とは「運営基準」「設備基準」として「人員基準」の3つに大別されます。
どれも同じ位重要ですが、今回は「人員基準」についてクローズアップいたします。
本コラムでは、訪問看護ステーションの人員基準の内容だけでなく、万一人員基準を満たせなかった場合の影響などについて詳しく解説いたしますので、是非最後までお読みいただければ幸いです。
訪問看護の人員基準とは、「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(平成十二年厚生省令第八十)」という厚生労働省令に明記されており、これがベースになります。冒頭に述べました訪問看護の「人員」「設備」「運営」に関する様々なルールがこの中に入っているということです。
ただし実際には、本省令をもとにして指定権者(都道府県や政令市など)が条例を定めているケースが多いです。
ここ「基準」に定められる内容は、訪問看護事業所が守るべき「最低限」のルールです。利用者様の尊厳保持や、日常生活における自立支援に向けた適切なサービスを提供するために必要とされる職種や員数等について明記したものであり、この基準を満たしていない事業所は「基準に違反している」という評価になってしまうわけです。
介護保険法に基づく指定を受けた場合は、おのずと「健康保険法」に基づく訪問看護事業者の指定も受けたとみなされます。これを「みなし指定」といいます。ここでは、介護保険法における訪問看護の人員基準に絞って解説してまいります。
訪問看護ステーションに定められる人員基準は、大きく分けて3つあります。
「看護職員」、「理学療法士等」、そして「管理者」です。それぞれ見ていきます。
看護職員は、常勤換算で2.5人以上の配置が必要であり、そのうち1人は常勤で配置することが必須となります。この基準を満たしていなければ「人員基準違反」となります。
ここでいう「看護職員」とは「看護師」とは少し意味合いが異なります。看護職員には「保健師」「看護師」「准看護師」が該当します(健康保険法の指定を受ける場合には「助産師」も含まれます)。
「常勤換算」という言葉の解説は後述いたします。
「理学療法士等」とは、いわゆるリハビリ専門職のことです。理学療法士等は、訪問看護ステーションの実情に応じた適当数を配置します。
理学療法士等の資格要件は「理学療法士」「作業療法士」「言語聴覚士」が該当します。
なお、先程「訪問看護ステーションの実情に応じ」と申し上げましたが、この職種については配置しなくても問題ありません。
管理者は、専従かつ常勤で1人の配置が必要です。
「専従」となってはおりますが、管理者には「兼務」が認められています。省令では、業務に支障がない場合において、訪問看護ステーションの他の職務や、同じ敷地内にある別の事業所・施設などの職務に就くことも可能となっております。
実際、管理者が自ら「訪問看護師」としてご利用者様宅を訪問しているケースは多々あると思います。これはステーション業務に支障がないという前提で、管理者と訪問看護師を兼務しているという形になるのです。
なお、管理者にも資格要件があり、下記の要件をすべて満たす必要があります。
ここでいう看護師とは「正看護師」のことをさし、例えば准看護師は管理者の資格要件を満たしません。ただしやむを得ない理由がある場合は、保健師・看護師以外も可となっております。
ただ、地域によっては認められない場合もありますので、ステーションを管轄する保険者にご相談されることをお勧めします。管理者の資格要件はあくまで「保健師」「正看護師」であることに留意しましょう。
(例:医療機関、訪問看護、訪問指導の業務の経験)
こちらについては訪問看護に限らず、どのサービスにもあてはまる要件です。
管理者は、事業所の職員・業務の管理を「一元的に管理」する立場です。
訪問看護の業務内容が全く分かっていない方が、訪問看護ステーションの管理を一元的に行うことはできないはずです。また、事業所指定後に定期的にやってくる「運営指導(旧:実地指導)」について、指導権者である行政から届く通知は「法人代表者あて」ですが、実際に運営指導に対応するのは基本的に「管理者」になります。訪問看護のことが全く分からない管理者が、運営指導に堪えられるとは考えられません。
本サービスについて一定の経験と知見を持った者ではないと、管理者という重責には就けないということです。
上記は「訪問看護ステーション」の例を挙げておりますが、病院・診療所が行う訪問看護も少ないながらも存在します(訪問看護の「みなし指定」)。
病院・診療所が行う訪問看護で定められる人員基準は「看護職員」のみになります。訪問看護ステーションに認められている「理学療法士等のサービス」は、病院等の訪問看護では提供できません。ですので、理学療法士等の配置もできないことになります。
また看護職員の員数ですが、病院・診療所が行う訪問看護の実情に応じた「適当数」を配置することになります。「適当数」となっておりますので、訪問看護ステーションのような「常勤換算2.5人以上」という定めはありません。
先程来、訪問看護ステーションの「看護職員」の人員基準において「常勤換算2.5人以上」が必須であると述べてきました。「常勤換算」とはどういう意味なのでしょうか。
「職員の勤務延べ時間数」÷「常勤職員の所定勤務時間数」=常勤換算数
ここでは、
管理者Aさん 週40時間(訪問看護師として週15時間兼務)
保健師Bさん 週40時間
看護師Cさん 週30時間
准看護師Dさん 週25時間
看護師Eさん 週15時間
上記の人員配置のステーション(常勤の勤務時間を「週40時間」と定めている)を例に考えてみましょう。なお、上記において「管理者Aさん」は訪問看護師を兼務していますが、管理者の業務に支障がないということを前提とします。
上記A~Eさんが「訪問看護師」として従事した勤務時間は、
Aさん(15時間)+Bさん(40時間)+Cさん(30時間)+Dさん(25時間)+Eさん(15時間)=125時間(職員の勤務延べ時間)
125時間÷40時間(常勤の勤務時間)=3.125人
となり、常勤換算2.5人を上回っています。また、上記でAさんとBさんは常勤職員ですので、「看護師のうち1名は常勤でなければならない」という要件も満たしています。
したがって、このステーションでは看護師の人員基準を満たしていることになるわけです。
上記のパターンであれば、人員基準を満たしていることにはなりますが、状況はいろいろ変化があるものです。例えば職員によっては育児や介護等の理由で「短時間労働」を行う職員がいる事業所もあるでしょう。
育児・介護による短時間労働の職員については、30時間以上勤務した実績があれば、常勤(上記の場合は40時間)の勤務実績がなくても「常勤として勤務した」ものとみなされます。知っておくとよいでしょう。
訪問看護ステーションを運営する中で、職員が急に退職する等により人員基準を満たせなくなるケースはあり得ます。
簡単に採用ができないからといって、そのまま放置していたのでは話になりません。まずは早急に人員の確保を行う必要があります。
しかし、なかなか難しい部分もあるでしょう。その場合は指定権者(都道府県・政令市の担当部署)に報告・相談することをお勧めします。
これは地域により解釈が異なるケースが多いため、一概にはいえないものの、行政に相談することにより一定期間の猶予を与えてくれる場合もあります。要は「●月●日までに基準を満たすように指導」するというケースです。
これは行政が事業所の状況を斟酌(相手の事情や心情を汲み取って手加減すること)する事例です。即刻基準違反とはせず、期日を設けて基準を満たすように努力を促すケースです。
この場合は、何よりも指定権者の指示に従うことが重要です。状況によっては定期的な状況報告を求められる場合もあるかもしれません。求められた場合はそれに従いましょう。
期日を定めても人員基準を満たせない状況となった場合は、速やかに「休止届」を提出することになります。
休止した場合、当然ながら訪問看護サービスを提供することができなくなるため、ご利用者様を一時的に手放すことになってしまいます。そうなると、残った職員の給与支払い等にも支障を来たすことにもなりかねないため、そうならないように事前の手立てを講じることが何より重要です。
もし行政へ報告・相談をせず、人員基準を満たしていない状況で運営を続けた場合は厳罰に処せられます。「人員基準違反」した事業所として「行政指導」や「行政処分」が下される可能性がありますので、重々注意しましょう。
過去の行政処分事例でも、人員基準違反による指定取消し処分が枚挙に暇がありません。
最近では「不正請求」「虐待の発覚」などによる指定取消し処分が非常に増えていますが、どのサービスにおいても「人員基準違反」による行政処分も依然として多いのが実情です。そうならないように、可能な限り事前の対処が重要になるのは言うまでもありません。
今回は、訪問看護ステーションの人員基準について解説しました。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。