地域包括ケアシステムの重要な一翼を担う訪問看護は、高齢化が進む日本において、ますますその重要性を増しています。
利用者の方々が住み慣れた地域で、安心して療養生活を送る上で、訪問看護は欠かせないサービスです。
しかし、その現場では、人材不足から業務負担、安全管理、制度上の課題まで、多岐にわたる「困りごと」が山積しており、その解決は喫緊の課題となっています。
今回は、訪問看護の現場で働く人々が抱える具体的な課題を詳細に整理し、その解決への糸口を探ります。
訪問看護の現場で最も深刻な課題の一つが、慢性的な人材不足です。
2020年時点で約8.9万人だった訪問看護師数は、2025年までに必要とされる12万人には遠く及ばず、その差は依然として大きいままです。
求人倍率は3.22倍と、他の施設種別と比較しても非常に高い水準にあり、人材確保の難しさが浮き彫りになっています。
特に地方での人材確保は困難を極めており、都市部との格差が拡大の一途を辿っています。
人材不足は、現場で働く人々への負担増加に直結します。
一人で訪問する心理的・身体的負担は大きく、24時間対応による疲労も蓄積します。
十分な研修体制がないことへの不安や、病院看護師よりも低い賃金水準なども、離職につながる大きな要因となっています。
このような状況が続くと、人材不足がさらに深刻化し、離職の連鎖が止まらなくなるという悪循環に陥ってしまいます。

訪問看護ステーションの半数以上を占める看護職員5人未満の小規模事業所では、経営基盤の弱さ、24時間体制維持の困難さ、ICT化の遅れなどが課題として挙げられます。
限られた人員で運営しているため、一人ひとりの負担が大きくなり、長時間労働や休日出勤も常態化しがちです。
また、保険請求のための詳細な記録業務、訪問間の移動時間、多様な利用者への対応など、業務負担も大きいのが現状です。
特に記録業務は、煩雑で時間がかかるため、業務時間外に行わざるを得ないケースも多く、現場の疲弊を招いています。
訪問時の安全確保、ハラスメント、感染リスクなど、安全・リスクに関する困りごとも深刻です。
特に一人で訪問するケースが多いため、緊急時の対応や身の安全確保は大きな不安要素となっています。
夜間・休日の緊急時対応、医師との連携、災害時の対応など、緊急時における体制整備も十分とは言えません。
さらに、訪問看護の専門性や業務負担に見合った報酬設定になっていないこと、医療保険と介護保険の併用など制度理解と運用が複雑であること、サービス提供に地域格差があることなど、制度上の課題も多く存在します。
これらの課題が複合的に絡み合い、現場を圧迫しているのが現状です。
情報共有の困難さ、連携不足、役割分担の不明確さなど、多職種連携における課題も少なくありません。
医師やケアマネジャー、リハビリ専門職などとの連携がスムーズにいかないと、利用者の方々への適切なサービス提供が難しくなってしまいます。
研修参加の困難さ、教育体制の不足、キャリアパスの不明確さなど、キャリア・成長に関する課題も、人材の定着を妨げる要因となっています。
将来への不安が、離職につながるケースも少なくありません。
また、家族介護力の低下、住環境の課題、複雑なニーズへの対応、終末期の意思決定支援、家族間の意見調整など、利用者・家族に関する課題も、訪問看護の現場で働く人々を悩ませています。
高齢化が進み、一人暮らしの高齢者や、複雑な問題を抱える家族が増えていることも、課題を複雑化させています。

訪問看護現場の「困りごと」は多岐にわたっており、人材確保・定着の問題を中心に、業務運営、安全・リスク管理、制度・環境、キャリア・成長、利用者・家族対応など、様々な課題が複雑に絡み合っています。
これらの課題解決には、単一的な対策ではなく、総合的なアプローチが必要です。
訪問看護の専門性に見合った適切な報酬体系を確立し、人材育成のための研修機会を充実させる必要があります。
また、ICTを活用して記録業務を効率化し、訪問間の移動時間を短縮することも重要です。
多職種間の情報共有を円滑にし、連携を強化することで、利用者の方々へのより質の高いサービス提供が可能になります。
さらに、訪問看護師としてのキャリアパスを明確にし、専門性を高めるための支援を行うことも、人材の定着につながります。
2025年、さらには2040年を見据えた訪問看護の発展のために、これらの「困りごと」に対する実効性のある対策の実施が急務となっています。
訪問看護に携わる人々が安心して働き、質の高いサービスを提供できる環境を整えることが、地域包括ケアの充実につながり、利用者の方々が住み慣れた地域で安心して暮らせる社会の実現に貢献するでしょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
あすてるコラムでは、今後も皆様にとってよりよい記事を展開してまいります。
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