2025年2月20日、厚生労働省は社会保障審議会介護保険部会を開催し、2027年の介護保険改正に向けた議論を開始しました。
今回の改正は、団塊の世代が75歳以上となる2025年以降を見据え、介護サービスの持続可能性を確保するための重要な転換期となります。
その中で、喫緊の課題として浮上しているのが、ケアマネジャー(介護支援専門員)の不足問題です。
この問題は、今後の介護サービスの質と量に直接影響を与える可能性があり、早急かつ抜本的な対策が求められています。
厚生労働省が2023年に実施したシミュレーションによると、ケアマネジャーの人員は2025年までに2万7千人、2040年までには8万3千人もの大幅な不足が生じると予測されています。
これは、現在のケアマネジャーの人数が減少傾向にあることに加え、高齢化が進み介護サービスの需要が増大することが要因として挙げられます。
このまま推移すれば、介護サービスを受けたくても受けられない人が増加し、介護難民問題が深刻化する恐れがあります。
ケアマネジャーの資格取得者は累計で739,215人(2023年時点)とされていますが、実際に居宅介護支援事業所で働いているのは188,170人に過ぎません。
これは、資格取得者の約4分の1強しか現場で働いていないことを示しており、資格取得後の離職率が非常に高いことが問題視されています。
資格取得者の多くが潜在的なケアマネジャーとして眠っている現状を打開し、現場への定着率を高めることが急務となっています。
ケアマネジャー不足の背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。主な問題点として、以下の3点が挙げられます。
現在、現場で活躍するケアマネジャーの平均年齢は53.6歳と高く、60歳以上が30%を占めています。
一方で、40代未満の割合は7.6%と非常に低く、若手人材の不足が深刻です。
これは、介護業界全体に共通する課題でもありますが、ケアマネジャーの業務の特性上、経験豊富なベテランが求められる一方で、新しい視点や柔軟な発想を持つ若手人材の育成も不可欠です。
今後、高齢のケアマネジャーの退職が進むことで、人材不足はさらに加速し、介護サービスの質の低下にもつながる可能性があります。

ケアマネジャーの業務は、ケアプランの作成や利用者とサービス事業者の調整、介護予防マネジメントなど多岐にわたります。
利用者の状況把握やアセスメント、関係機関との連携、記録作成など、事務作業も膨大です。
それに加えて、利用者への身の回りのお世話、書類作成補助、病院や救急車への同席、加算対象外の通院同行など、本来の業務範囲を超える「シャドーワーク」が多いことも指摘されています。
これらの業務負担が、ケアマネジャーの心身の疲弊を招き、離職やなり手不足につながっていると考えられます。
業務の効率化や負担軽減策を講じることが喫緊の課題です。
ケアマネジャー試験の合格率は平均20%前後と難易度が高く、受験資格を得るためのハードルも高いです。
受験資格を得るためには、特定の国家資格を有しているか、特定の業務経験が一定期間以上必要となります。さらに、資格更新の手続きも煩雑であり、更新しない人も少なくありません。
厚生労働省は受験要件の緩和や更新研修のオンライン化などを検討していますが、要件緩和は質の低下につながる可能性もあり、慎重な検討が必要です。
質の維持と人材確保の両立が求められています。
このような状況を踏まえ、厚生労働省は2027年の介護保険改正において、ケアマネジャーの処遇改善を重要な論点としています。
具体的には、処遇の確保、業務範囲の整理、ICTの活用、法定研修の見直しなどが検討されています。
現在、居宅介護支援のケアマネジャーには処遇改善加算がなく、介護福祉士など現場で介護業務を行う職種よりも賃金が低い傾向にあります。
夜勤手当などを含めると介護職の方が給与面で有利になる場合もあり、ケアマネジャーの仕事に見合う処遇がなされていないという声も上がっています。
専門性と責任の重さを考えると、処遇の改善は当然と言えるでしょう。
今回の改正では、ケアマネジャーの処遇改善に加えて、業務の効率化や負担軽減策も検討される見込みです。ICTの活用による業務効率化や、業務範囲の明確化、シャドーワークの削減などが期待されます。
具体的には、AIを活用したケアプラン作成支援システムや、オンラインでの情報共有プラットフォームの導入などが考えられます。
また、多職種連携を強化し、業務分担を進めることも重要です。

今回の介護保険改正におけるケアマネジャーの処遇改善は、人材確保に向けた重要な一歩となります。
しかし、処遇改善だけでは根本的な解決には至りません。
若手人材の育成や、資格取得・更新の制度の見直し、業務負担の軽減など、多角的な対策が必要です。
若手人材の育成に関しては、養成課程の充実やキャリアパスの明確化、メンター制度の導入などが考えられます。
また、資格取得・更新の制度については、受験資格の見直しや試験内容の改善、オンライン研修の拡充などが求められます。
業務負担の軽減に関しては、ICTの活用や多職種連携の強化に加えて、事務補助員の配置や業務のアウトソーシングなども検討する必要があるでしょう。
また、ケアマネジャーの専門性や役割を社会全体に理解してもらうことも重要です。
ケアマネジャーは、利用者とサービス事業者を繋ぐ重要な役割を担っており、その専門性は介護サービスの質を大きく左右します。ケアマネジャーの社会的地位の向上も、人材確保につながるでしょう。
地域包括ケアシステムにおけるケアマネジャーの役割を明確化し、その重要性を広く周知することが求められます。
2027年の介護保険改正は、今後の介護保険制度のあり方を大きく左右する可能性があります。
ケアマネジャー不足の解消は、介護サービスの持続可能性を確保する上で不可欠な課題です。
今回の改正を機に、ケアマネジャーが安心して働き続けられる環境づくりが進み、質の高い介護サービスが提供されることを期待します。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。