近年、日本における高齢化はますます進み、在宅医療の重要性が高まっています。
その中で、訪問看護ステーションは、地域包括ケアシステムの一翼を担い、患者さんが住み慣れた自宅で安心して療養生活を送るための重要な役割を果たしています。
しかし、訪問看護ステーション数の増加に伴い、医療費の増大や不適切な運営が懸念されており、指導監査体制の見直しが喫緊の課題となっています。
訪問看護ステーションの数は、特に営利法人を中心に増加傾向にあります。
これは、高齢
化の進展や在宅医療ニーズの高まりを背景としたものであり、訪問看護の需要が拡大していることを示しています。
厚生労働省のデータによると、訪問看護サービスの利用者は年々増加しており、それに伴い、訪問看護ステーションの数も増加の一途を辿っています。
特に、都市部を中心に、複数の事業所を展開する大規模な訪問看護ステーションが増えており、その運営体制や質の確保が課題となっています。
医療費の面では、訪問看護療養費の算定件数と年間医療費が大幅に増加しており、特に高額な請求を行うステーションが多く見受けられ、ネット報道でも取り上げられるようになってきています。
訪問看護は、医療保険や介護保険が適用されるサービスであり、その費用は公費で賄われています。
そのため、不適切な請求や過剰なサービス提供が行われると、医療費の増大を招き、国民の負担が増えることになるため、基本的に許されません。
また、一部のステーションでは、利用者の状態にかかわらず一律に回数を定めて訪問看護を行う事例や、不適切な請求を行う事例も見受けられます。
このような状況は、訪問看護全体の信頼を損なうだけでなく、医療費の増大を招く可能性があります。
例えば、必要以上の訪問回数を設定したり、実際には行っていないサービスを請求したりするケースが報告されています。

このような状況を踏まえ、2025年3月12日に行われた中央社会保険医療協議会(中医協)において、今後の指導監査の方向性について議論されました。
訪問看護ステーションの質の確保と医療費の適正化を図るためには、指導監査体制の強化が不可欠であるという認識が共有されました。
中医協での議論を踏まえ、今後の指導監査の方向性として、以下の点が挙げられました。
複数の都道府県にまたがる広域運営ステーションに対し、厚生労働省本省と地方厚生(支)局、都道府県が連携した指導体制が構築されること。
都道府県個別指導に加え、共同指導も実施されること。
これは、広域運営ステーションが複数の地域でサービスを提供しているため、それぞれの地域の実情を踏まえた指導を行う必要があるためです。
また、都道府県間の連携を強化することで、より効果的な指導が可能になります。
高額請求など、一定の基準に該当するステーションに対し、教育的な視点からの指導機会が設けられること。
また、従来の「情報提供」に基づく指導に加え、個別指導の選定基準を見直すこと。
これは、不適切な運営を行っているステーションに対して、改善の機会を与えるとともに、適切な運営を促すことを目的としています。
教育的な指導を通じて、訪問看護の質を向上させ、利用者に適切なサービスを提供できるようにすることが重要です。
訪問看護療養費請求書の1件当たりの平均額が高いステーションが、新たに個別指導の対象となること。
これは、高額な請求を行っているステーションに対して、その理由や根拠を確認し、適切な請求が行われているかを検証するためです。
また、個別指導の対象を明確化することで、ステーション側の意識改革を促し、適切な請求を促す効果も期待できます。
利用者の心身の特性を踏まえ、主治医との連携のもと、看護目標と訪問看護計画に沿った適切な訪問看護が求められること。
これは、利用者の状態やニーズに応じた適切なサービスを提供することを目的としています。
漫然とした訪問看護や画一的なサービス提供ではなく、利用者一人ひとりに寄り添った、質の高い訪問看護が求められます。
訪問看護の日数、回数、実施時間、訪問人数は、利用者や家族の状況に基づき、主治医の指示書に従って検討されるべきであり、開設者等の一方的な決定は認められないことがより明確になる。
これは、訪問看護の計画が、利用者の状態やニーズに基づいて適切に作成されるべきであることを明確にするためです。
開設者や管理者の一方的な判断ではなく、主治医や利用者の意見を尊重し、適切な訪問看護計画を作成することが重要です。

これらの見直しは、訪問看護事業の健全な発展と適切な医療費の運用を目的として議論が進められており、今後の訪問看護ステーション運営の根幹に関わる重要論点の一つです。
適切な訪問看護の提供を確保し、医療費の適正化を図ることで、利用者が必要なサービスを安心して受けられる体制を構築することが重要です。
在宅医療において、訪問看護は今後ますますその重要性を増すと予想されます。
今回の指導監査体制の見直しを契機として、訪問看護の質が飛躍的に向上し、利用者本位の、より質の高いサービスが提供されることが強く期待されます。
今回の指導監査体制の見直し検討を契機として、訪問看護ステーション側は、日々の業務を改めて見直し、法令遵守を徹底するとともに、質の高い訪問看護を提供するという意識を強く持つことが不可欠です。
訪問看護は、利用者の生活を支える上で極めて重要なサービスであり、その質が厳しく問われる時代となっています。
したがって、各ステーションは今回の見直しを機に、自己点検を徹底的に行い、改善点があれば積極的に改善に取り組むことが強く求められます。
次回の診療報酬改定は2026年に行われます。
今回の指導監査体制の見直しは、次回の診療報酬改定にも大きな影響を与える可能性があります。
訪問看護ステーションは、今回の見直しを踏まえ、今後の運営方針やサービス内容について真剣に検討する必要があります。
今後の行方について注意深く見守る必要があることはいうまでもないでしょう。
今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
あすてるコラムでは、今後も皆様にとって有益な情報をお届けいたします。
今後の投稿に、どうぞご期待くださいませ!
厚生労働省「訪問看護ステーションの指導監査について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001440838.pdf