今回は訪問看護における退院時共同指導加算について詳しく解説します。
2024年介護・診療報酬改定に鑑み、それぞれの場合における加算の概要、算定要件、必要な文書、そして関連する加算との違いなど、実務に役立つ情報を網羅的にお伝えします。
退院時共同指導加算は、地域の訪問看護ステーションと医療機関との連携強化を評価するために創設された加算です。
この加算は、ご利用者様が病院から退院する際に「退院前カンファレンス」等で訪問看護ステーションと病院が連携し、退院後の在宅療養に関する指導を行った場合に、訪問看護ステーション側が算定できます。
退院時共同指導加算の算定にあたり、介護保険・医療保険とも届出の必要はありません。算定要件を満たせば算定が可能です。
介護保険・医療保険について届出が必要な療養費・加算については下記をご参照ください。
東京都福祉局HP「訪問看護・介護予防訪問看護」加算等の届出様式
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kourei/hoken/kaigo_lib/tuutitou/4_houkan
関東信越厚生局HP「訪問看護ステーションの基準に係る届出(令和6年度診療報酬改定)
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/kango/R06houmonnkanngoryouyouhi_00002.html
余談ですが、似たような加算として「退院時共同指導料」がありますが、これは在宅療養支援診療所(訪問診療クリニック)が算定する加算になります。加算要件は共通する部分がありますが、訪問看護が算定可能なのは「退院時共同指導加算」になりますので、混同しないようにしましょう。
「退院前カンファレンス」とは、退院後に在宅医療に切り替わった場合にも支援が必要な患者に対し、主治医・退院支援看護師・ソーシャルワーカーを中心にケアマネジャー・訪問看護師・サービス提供責任者など在宅サービス関係者も出席して、支援方針などを話し合う場のことです。
退院後に在宅療養に移行する患者に対し、退院後の生活や援助方針などについて意見交換を行います。
退院前カンファレンスには、通常「医師(主治医)」も参加します。
ただ、医師も多忙等を理由に参加できない場合もあります。カンファレンスに医師が参加できないことのみをもって加算が算定できないわけではありません。
しかしながら、退院時共同指導にかかる文書は、医師や看護師等と連携して作成することになるため、医師が全く関与しないということはありえないはずです。
退院前共同指導書については特に決まった書式はありませんが(後述)、以下を参考にされるとよいでしょう。

静岡県訪問看護ステーション協議会「書式ダウンロード」
https://www.shizuoka-vnc.jp/sheet.html
入院患者の在宅復帰を支援するためには、医療機関と地域の介護サービスとの連携が重要不可欠になります。
連携なくして、地域包括ケアシステムを構築することはできません。
在宅生活を支援する訪問看護ステーションと医療機関との連携を強化することで、患者がより早期に退院して在宅生活を送れることが期待できるというわけです。
退院時共同指導加算は、医療保険と介護保険の両方で算定できます。
それぞれ算定単位数・報酬額などが異なりますので、ここで詳しく解説いたします。
退院時共同指導加算は、入院患者の円滑な在宅復帰を支援するために設けられた加算です。
この加算は、医療機関と在宅サービス提供者が退院前にしっかり連携することにより、退院後の継続的な医療・介護サービスの提供を可能にします。
退院時共同指導加算は、介護保険制度において重要な役割を果たす加算の一つです。
この加算は、入院中の患者が退院後スムーズに在宅生活に移行できるよう、医療機関と訪問看護ステーションなどの在宅サービス提供者が連携して支援を行うことを目的としています。
具体的には、退院前に病院の医師や看護師、そして退院後にケアを担当する訪問看護師などが一堂に会し、患者の状態や必要なケアについて情報共有と指導を行います。
この過程で、患者や家族も交えて退院後の生活に関する不安や疑問を解消し、安心して在宅生活を始められるよう支援します。
対象となるサービスは主に訪問看護ですが、必要に応じて訪問介護や通所介護などの他のサービス提供者も参加することがあります。
この加算は、単に形式的な会議を行うだけでなく、実質的な退院支援と在宅ケアの質の向上につながることが期待されています。
2024年度の介護報酬改定では、この加算の重要性がさらに認識され、算定要件や報酬額に一部変更が加えられました。
具体的には、ICTを活用したオンラインでの共同指導も認められるようになり、より柔軟な対応が可能になりました。
また、複数回の指導を行った場合の評価も見直され、きめ細かな支援に対する評価が強化されています。
介護保険における退院時共同指導加算は、病院等から退院(もしくは退所)する利用者に対して、入院(もしくは入所)していた病院等のスタッフと共同で指導を行った際に算定できる加算です。
単位数・算定要件については下記の通りです。
600単位/回
病院等の医療機関や介護老人保健施設等の入所系施設から退院(もしくは退所)する利用者
・病院等の医療機関や介護老人保健施設など入所系施設から退院(もしくは退所)する利用者に対して、病院等の医師もしくはその施設の従業者と共同して療養上の指導を行うこと。
・退院時共同指導の内容を文書によって提供すること。
・退院(もしくは退所)後に訪問看護サービスを実施する。
・退院時共同指導の内容を訪問看護記録書に記録する。
・看護師等(准看護師を除く)が共同指導を行っていること。
介護保険の退院時共同指導加算を算定する場合、注意しなければいけない点がいくつかあります。
ここでは、算定できる回数の注意点と複数の訪問看護ステーションが算定する場合の注意点、テレビ電話を活用した場合の注意点について解説します。

退院時共同指導加算は、退院(もしくは退所)後の1回目に訪問した訪問看護の所定単位数に加算できます。
そのため、原則として1回の退院(もしくは退所)につき、1回のみ算定可能です。
ただし、気管カニューレの使用などの特別な管理を必要とする方については2回算定することもできます。
なお、「特別な管理を必要とする方」の要件は以下の通りです。
在宅麻薬等注射指導管理
在宅腫瘍化学療法注射指導管理
在宅強心剤持続投与指導管理
在宅気管切開患者指導管理
気管カニューレや留置カテーテルを使用している状態
在宅自己腹膜灌流指導管理
在宅血液透析指導管理
在宅酸素療法指導管理
在宅中心静脈栄養法指導管理
在宅成分栄養経管栄養法指導管理
在宅自己導尿指導管理
在宅持続陽圧呼吸療法指導管理
在宅自己疼痛管理指導管理
在宅肺高血圧症患者指導管理
人工肛門、人工膀胱の設置
真皮を越える褥瘡
週3日以上の点滴注射
退院時共同指導加算を算定できる事業所は1事業所のみです。
そのため、複数の訪問看護ステーションが退院時共同指導に関わる可能性がある場合は、主治医の所属する医療機関等に他事業所の算定状況を確認するとよいでしょう。
ただし、退院時共同指導加算を2回算定できるご利用者様に対しては、取り扱いが変わります。
この場合で複数の事業所が退院時共同指導を行う際には、各事業所で1回ずつ算定することも可能ですので、覚えておくとよいでしょう。
2021年の介護報酬改定で、退院時共同指導を実施する際に「テレビ電話等」を活用できるようになりました。
文書以外での方法でも算定ができるように改められたのです。
テレビ電話を活用することで、より退院時共同指導加算を算定しやすくなることが期待できます。
ただし、退院時共同指導を実施する際にテレビ電話装置等を活用する場合は、個人情報ガイドラインに従って、ご利用者やご家族の同意を得なければいけません。
必ず事前に内容や目的について説明し、同意を得ておきましょう。
同意が得られない場合、オンラインによる共同指導はできなくなります。
退院時共同指導加算を算定した場合は、訪問看護初回加算の算定はできません。これを間違えてしまい、運営指導で指摘を受けてしまう事例がありますので、十分注意しましょう。
医療保険で算定できる退院時共同指導加算は、主に病院等から退院(もしくは退所)する利用者に、訪問看護ステーションのスタッフが入院していた病院等の医師やスタッフと共同して指導を行うことで算定できる加算です。
介護保険の場合とほぼ同じといってよいでしょう。
ここでは、医療保険の退院時共同指導加算の報酬額、算定要件や注意点について解説します。
8,000円/回
病院等の医療機関や介護老人保健施設等の入所系施設から退院(もしくは退所)する利用者
・病院等の医療機関や介護老人保健施設など入所系施設から退院(もしくは退所)する利用者に対して、病院等の医師もしくはその施設の従業者と共同して療養上の指導を行う。
・退院時共同指導の内容を文書によって提供する。
・退院(もしくは退所)後に訪問看護サービスを実施する。
・退院時共同指導の内容を訪問看護記録書に記録する。
医療保険の退院時共同指導加算を算定する場合の算定要件や注意点などは、介護保険の場合とほぼ同じです。
ただし、2回算定ができるための要件(対象疾患)が少し異なりますので、混同しないようにしましょう。
医療保険の退院時共同指導加算を算定する場合、「厚生労働大臣が定める疾患等」の利用者については、2回の算定が認められています。介護保険で2回の算定が可能となる「特別な管理が必要な利用者」と、医療保険で2回の算定が可能となる「厚生労働大臣が定める疾患の患者」は、対象者が異なるため注意が必要です。
退院時共同指導について、介護保険と同様「准看護師」は担当できません。
また、訪問看護ステーションと特別の関係にある保険医療機関・介護老人保健施設・介護医療院を退院・退所した場合も算定できます。
末期の悪性腫瘍
多発性硬化症
重症筋無力症
スモン
筋萎縮性側索硬化症
脊髄小脳変性症
ハンチントン病
進行性筋ジストロフィー症
パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上であって生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る))
多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレ―ガー症候群)
プリオン病
亜急性硬化性全脳炎
ライソゾーム病
副腎白質ジストロフィー
脊髄性筋萎縮症
球脊髄性筋萎縮症
慢性炎症性脱髄性多発神経炎
後天性免疫不全症候群
頚髄損傷
人工呼吸器を使用している状態
特別管理指導加算の対象者
退院時共同指導加算と退院支援指導加算は同時に算定できます。
退院支援指導加算とは、医療機関から退院する患者に対して、訪問看護ステーション等が在宅療養上必要な指導を行うことで算定できる加算です。
医療保険の場合、退院日当日の療養費算定はできないため、その代わりに算定する加算が「退院支援指導加算」になります。
退院時共同指導加算は「退院前」に指導を行うことで算定できる加算ですが、退院支援指導加算は「退院日」に指導を行うことで算定できる加算です。
また、退院時共同指導加算は「入院先の医療機関や介護保険施設」で指導が行われるのに対して、退院支援指導加算は「在宅」で指導を行います。
どちらの算定要件も満たしていれば、退院日翌日以降初回訪問時に、訪問看護基本・管理療養費に加えて両方の加算を算定することができます。
退院時共同指導加算を算定する場合、文書を作成する必要があります。
この文書は、行政から決まった書式を提示されていないため、何を書けばよいのかわからない方も多いでしょう。
退院時共同指導実施時の文書に記載すべき項目については、以下の内容が考えられます。
・実施日(指導実施日)
・共同指導の実施者
・退院後の療養生活に係る指導や診療の継続に係る指導
・初回の訪問予定
などです。
様式例については前述に掲げたものが参考になるでしょう。
退院時共同指導を実施した際には、上記の内容を盛り込んだ文書を作成し、事業所内で保管しておくとよいでしょう。

本記事では、訪問看護における退院時共同指導加算について詳細に解説しました。
退院時共同指導加算は、患者の円滑な在宅復帰を支援するための加算であり、医療機関と在宅サービス提供者の連携を促進する役割を果たしています。
ただし、退院時共同指導加算の算定にあたっては、単に形式的な要件を満たすだけでなく、患者一人ひとりの状況に応じた実質的な支援を行うことが重要です。
また、関連する他の加算(退院支援指導加算、特別管理加算など)との適切な組み合わせを考慮し、患者にとって最適な退院支援と在宅ケアを提供することが求められます。
医療機関、訪問看護ステーション、その他の在宅サービス提供者は、この退院時共同指導加算の趣旨を十分に理解し、患者中心の切れ目のないケアを実現するために積極的に活用していくことが望まれます。
同時に、制度の変更や新たな解釈等については常に最新の情報を確認し、適切な運用を心がけることが大切です。
最後に、退院時共同指導加算は、単なる経済的インセンティブではなく、患者の生活の質を向上させ、地域包括ケアシステムを推進するための重要なものであることを強調しておきます。
この加算を効果的に活用することで、患者、家族、医療・介護従事者のすべてにとって、より良い在宅ケアの実現につながることが期待されます。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。