介護業界の最新ニュースー賃上げの更なる推進

こんにちは!

今回は、介護業界に関連する最新ニュースのうち、11月に打ち出された「賃上げ策」についてお伝えいたします。ぜひ最後までお付き合いいただけますと幸いです。

厚生労働省は先日11月29日、政府が閣議決定した2024年度の補正予算案を公表しました。

その財政規模は8,454億円とかなり大型であり、そのうち介護分野で最も金額が割かれる「介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策」は1,103億円です。補正予算の約13%が介護分野に充当されることになります。

今更申し上げるまでもなく、介護業界の人材確保や処遇の改善は喫緊の課題であり、政府もそれは重々認識しているようです。今回、大型の予算を組んで何とかしようという姿勢は見て取れます。

以下、その具体策の内容についてご紹介いたします。

介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策の概要

具体策の中には、介護職員等処遇改善加算(訪問看護ステーションの場合は医療保険の訪問看護ベースアップ評価料)を取得している事業所を対象とした「補助金の交付」が盛り込まれています。ただし、その用途には「職場環境改善等の経費に充てること」も想定されているようです。

恒久的な対応策として、筆者はやはり介護報酬であれば「基本報酬」を、医療保険であれば「基本療養費」の増額が必要かと思いますが、そこにはなかなか踏み込めない領域なのでしょうか・・・今回報酬改定が行われたばかりなので、緊急対策として「補助金」形式で実施するようですが、今一つ場当たり的な感じがしてなりません。

現在、介護職員等処遇改善加算を算定する事業所はかなり多いと思いますが、今年度は「職場環境等要件」等の整備について猶予されているところがあります。

これが進まないことにより、2025年度はⅠ~Ⅳの区分を変更する(体制が整わないため下位の区分にする)事業所も出てくるかもしれません。職場環境等要件の改善は、もはや介護事業所が「忙しいから」といって実施しないという選択肢はなくなるでしょう。

反面、事業所の実情や判断もあるでしょうから、この補助金を活用をするかしないかについて判断が別れることも想定されます。

そのほか、訪問介護事業者に対する経営支援のための補助金も創設されるようです。訪問介護における人材不足は本当に深刻で、これは石破総理も言及しています。ここを何とかしない限りは、介護離職も止まらないでしょう。介護離職の蔓延は社会的損失といっても過言ではありません。

補正予算の具体的な内容

この補正予算の柱は、6つにまとめられています。

予算規模としては、

Ⅰ「医療・介護・障害福祉分野の更なる賃上げの支援等、医師偏在是正に向けた対策の推進」2,861億円

Ⅱ「持続的・構造的賃上げに向けた支援等」313億円

Ⅲ「創薬力強化に向けたイノベーションの推進、医薬品等の安定供給確保」 442億円

Ⅳ「医療・介護DX等の推進」1,447億円

Ⅴ「国際保健・次なる感染症に備えた対応等」 1,022億円

Ⅵ.「国民の安心・安全の確保」2,205億円

という構成になっており、特にⅠ・Ⅳ・Ⅵの予算が大きくなっていますね。

今回の補正予算のうち、介護業界に関連するものとしてはⅠ「医療・介護・障害福祉分野の更なる賃上げの支援等、医師偏在是正に向けた対策の推進」Ⅳ「医療・介護DX等の推進」ではないかと考えます。本コラムでは、特に前者(Ⅰ)を主眼に置いて解説したいと思います。

介護業界にとっての本丸「介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策」とは

今回の人材確保、職場環境改善に向けた施策は、以下のような内容となっております。

・処遇改善加算を取得している事業所のうち、更なる業務効率化や職場環境の改善を図る事業所への支援を実施する「介護人材確保・職場環境改善等事業」

・生産性向上・職場環境改善等に関するテクノロジーの導入や投資に対する支援のほか経営等の協働化・大規模化への支援を実施する「介護テクノロジー導入・協働化等支援事業」

・訪問介護事業所を対象とした経営支援やホームヘルパーの人材確保を促進する「訪問介護の提供体制確保支援」

上記がいわば「3つの柱」となっているようです。

厚生労働省が公開した資料をお示ししますので、ご確認いただけますと幸いです。

「介護人材確保・職場環境改善等事業」の概要説明資料には、「更なる賃上げ」策の実施が明記されています。賃上げの手法は、介護職員等処遇改善加算の取得事業所を対象とした補助金の交付です。

補助金の申請にはサービス類計別に定められた「職場環境改善等に向けた取り組み」を行い、そのための計画策定等が要件になるようです。先ほどから申し上げておりますが、介護職員等処遇改善加算(Ⅰ~Ⅳ)の取得が前提になるということです。

施策の詳細は「検討中」とされているため、詳細は今後明らかになります。

補助額の用途がすべて人件費に固定されるわけではなく、「職場環境改善等の経費に充てる」ことも想定されるでしょう。

処遇改善加算の対象とならないサービス事業はどうなるか

何度も申し上げているように、本予算は介護職員等処遇改善加算を算定する事業所を対象にしており、算定対象外である居宅介護支援事業所等へに対しては対象とならない公算が強いとおもわれます。

ただし、訪問看護サービスについては、医療保険の「訪問看護ベースアップ評価料」を算定しているステーション向けに介護施設・事業者向けのものと類似した補助金が設定される見込みです。こちらについては具体的な金額が明記されていまして、有床診療所等には「4万円」、訪問看護ステーションについては「18万円」と明記されています。補助率は10/10となるようです。

特に人材不足が深刻な「訪問介護」に対する補助

介護人材の確保については、「賃上げ」や「職場環境の改善」以外にも幅広い施策が進められます。

先ほど来申し上げているように、特に訪問介護事業においては人材不足が本当に申告で、いまだに14倍を超えています。「14倍」というのは、求職者1名に対し14か所の事業所が争奪する、ということです。これを「異常な状態」といわずして、ほかにどのような表現があるでしょうか。

上記のことを受けてか、今回訪問介護サービスに特化した補助金(「訪問介護等サービス提供体制確保支援事業」)を設けることになったようです。

具体的には、

  • 研修体制づくりやホームヘルパーへの同行支援などにかかる経費を支援する「人材確保体制構築支援事業」
  • 職員の常勤化の推進、経営や組織の大規模化・協働化などにかかる経費を支援する「経営改善支援事業」

の2つのメニューが用意されています。詳細は、厚生労働省が公開した下記資料(スライド)をご覧ください。

加えて、人材確保を目的とした連携協議会の設置・運営や学生等をターゲットとしたホームヘルパーに関する広報等も推進が図られます。

そのほか、

  • 介護福祉士修学資金等貸付金貸付原資の不足が見込まれる自治体に対する原資の積み増し
  • 海外での人材確保に資する取組(送り出し国の調査、訪問活動、現地説明会等)を行う事業所・介護福祉士養成施設・日本語学校等に対する支援
  • 潜在介護福祉士等を対象とした公的人材機関による就職支援のモデル事業
  • 地方自治体による介護未経験者を対象としたマッチング機能の強化

等に予算がつきそうです。

まとめ

今回の補正予算は、社会保障のうち特に介護分野においてかなり手厚いものになるようです。

ただ、今回は補正予算の概要が明らかになっただけで、本コラム公開時点ではまだ正式に決定しておりません。国会で審議され、自民党・公明党・国民民主党等の賛成多数で可決成立する見通しです。

予算が現時点で「案」であるため、具体的な補助金額も申請方法も決まっていません。本補正予算が成立し、来年度の実施(恐らくそうなるでしょう)に向けて骨子が明らかになることと思われます。

筆者が求めるのは、形式的には介護業界に寄り添った予算内容と思えても、中身が形骸化してしまうような運用にしてほしくない、ということです。国の施策はピント外れの内容も多く、本当に現場に即して検討しているのかと疑ってしまうこともあります。

介護にかかわる方々の処遇を改善するためには、補助金の構築も重要です。しかし、もっと「本質」に立ち返って考えてほしいのです。

今年(2024年)10月に行われた衆議院議員選挙で、与党(自公)は過半数割れしました。与党のみでは法案成立させることはできず、他党との政策連携などを行いながら是々非々でやっていくことになるでしょう。今後、いわゆる「103万円の壁」の抜本見直しなどにより、国民の手取りを増やすための施策を講じることになると思います。介護業界においてももっと根本的に処遇改善をしていただき、全業種と比較しても引けを取らない給与水準が作れるようにしていただきたいところです。

反面、国の施策に頼るだけでもいけません。事業所単位での不断の努力も必要です。介護事業所は、今後ますます「生産性の向上」が求められます。業務の効率化もそうですし、サービスの質の向上も「生産性向上」に直結することになります。

社会保障財源に限りがあることは間違いありません。その中で、報酬アップに頼るばかりで経営努力を怠ってしまっては、そのうち立ち行かなくなるでしょう。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。