こんにちは!
このたび、財務省の諮問機関である「財政制度等審議会 財政制度分科会」が開催され、社会保障が俎上にあがりました。
社会保障は介護だけでなく「医療」「子育て」「年金」など大きいテーマがたくさんあるわけですが、今回は「介護」分野に絞り、財務省が今後の介護についてどのように考え、実行していこうとしているかについて解説します。

財務省は、介護分野に関する考え方として、審議会の冒頭に次のように述べています。
「介護費用の総額は、高齢化等の要因により毎年増加。こうした中、引き続き、必要な介護サービスを提供しつつ、国民負担を軽減する観点から、報酬の合理化・適正化等を進めていく必要がある」と。
社会保障費は、少子高齢化が今後も進むと想定した上で、必要なサービスを位置づけるとしつつも「合理化」「適正化」を謳っています。
もちろん、実際のサービスには無駄と思われることや見直すべきことは当然あります。
改善すべき部分は改善しないと、今後働き手がさらに減る中で生産性が高まっていきません。ですので、財務省の考え方は当然かと思います。
しかしそれでも、財務省は介護分野について積極的に予算を投入するという意思はあまりないのではないか、と筆者は思ってしまいます。非常に消極的な姿勢ではないか、と。
先の衆院選で、自公連立政権は過半数を割り込み、政局混迷ぶりが窺えます。
某政党の政策である「手取りを増やす」政策として、例えば103万円の壁を取っ払うにせよ、暫定税率(トリガー条項)の撤廃等を掲げていますが、財務省はネガティブキャンペーンとばかりに難色をしめしています。「税収が減る」と。。。
しかし、日本の税収は過去最高を更新しています。
もちろん、納税は日本人の義務であり、適正に徴収し活用しなければならないのは当然です。しかし、効果的な配分が出来ているのかといえば、なかなか疑問です。
2024年介護報酬・診療報酬改定では、どちらもプラスの改定となりました。
特に大きいのが、介護職員をはじめとする直接処遇職員への待遇改善です。
「介護職員等処遇改善加算」が6月に一本化され、加算率もかなり上がりました。
これだけでもかなり喜ばしいことではあります。
しかし、介護職員等の処遇改善は、これだけではまだまだ足りません。
前述した衆院選でも、各党は「最低賃金を1500円に」という政策を掲げていますが、これは何が何でも実現してほしいところです。
自公が少数与党になり、これまでのように予算成立を強行するようなことはできなくなりましたので、より国民に寄り添った政策実現に邁進してほしいところですが、実際のところなかなか難しいところもあります。

本分科会で公開された資料には、財務省が今後目指す改革の方向性について、これまで行ってきた改革事項を踏まえて紹介しております。
ここでは、その中で特に注目すべき事項について考えてまいります。
財務省は近年の介護業界における採用コスト、特に「人材紹介会社」に支払う手数料の高騰を非常に問題視しております。「人材紹介会社を活用すると離職率が高まっているのではないか」と評価している位です。
介護報酬は、人材紹介の活用にかかるコストまで想定していません。当然といえば当然ですね。人材紹介会社の中には、どう考えても健全とはいえないような法人も散見されるようで、国もそれは認めているところです。
令和7年度をメドに、国は人材紹介会社に対して何らかの規制をかける旨を明言しています。有料職業紹介に対する規制を強化し、ハローワークなどのサービスをより充実させたい考えのようです。
もちろん、近年の人材紹介会社の手数料高騰が驚くべきレベルであることは、厳然たる事実です。ですので、特に悪徳といえる業者は一掃してほしいと願うのが正直なところです。。
しかし、それだけでは人材不足を解消することはできません。もちろん政策上の問題もありますが、介護事業所側の問題(人材定着に関する意識の欠如など)もあることは否定できません。
これは、数ある課題のうちのごく一部であるということは言うまでもないでしょう。
これについては、本コラムでも再三にわたり解説してきましたが、これからの介護業界はいかにして「生産性を高めていくか」がカギになります。これは紛れもない事実です。
ICTの進化により、介護ロボットや見守り機能サービス等が、最近では展示会で盛んに紹介されています。今後はこのようなものを活用していくことも考える必要があるでしょう。
しかし筆者が気になったのが、財務省が「経営の協働化」「大規模化」という表現を使っていることです。
経営の協働化とは、人材採用や研修、物品等を協働して行うという考え方です。
確かに物品の購入等は、大ロットにしたほうが安く調達できますので有意義といえるでしょう。
ただ、人材採用のところまで果たして他者と協働できるのでしょうか・・・筆者は少々疑問です。これを行うには、協働する法人間で、ある程度の理念共有が図られていることが必要かと思います。間違っても「人材を大切にする法人」と「利益のみを追求する法人」とでは、とても協働することはできませんから・・・
また、ここ数年で「法人の大規模化」が叫ばれています。大規模化すれば、より充実した資本を活用できるため効率的であるということです。
社会福祉法人に限定して、前回改定で「社会福祉連携推進法人」という制度がはじまりました。これは複数の社会福祉法人等が連携して事業運営を行うことを目的とした制度で、考え方としては理にかなっていると思っています。
しかし、日本全国の介護事業法人の大半は「中小企業」です。こういう方々が、地域の社会福祉を支えているといっても過言ではありません。
財務省は、このような現実があることを本当に認識しているのでしょうか。甚だ疑問です。
財務省・厚生労働省が今後どのような施策を打ち出してくるかはわかりませんが、少なくとも「生産性の向上」が俎上に上がっている以上は、今後避けて通れない重要課題であることは間違いありません。
こちらについては、ずいぶん前から議論が白熱し、厚生労働省との折衝の結果先送りを繰り返している案件です。
財務省としては何が何でも実現したい「悲願の一つ」といってよいでしょう。
現行の介護サービスにおいて、利用者負担が基本的に発生しないサービスは「居宅会議支援」「介護予防支援」しかありません。この部分に財務省は目をつけ、何としてでも自己負担を求めたい気が満々です。
筆者個人的には「ケアマネジメント自己負担はやむ無し」と考えていますが、実際は厳しいでしょうね。自己負担が発生するということは、その分の債権管理を事業所が行うということを意味します。そうなれば、「自己負担金分が回収不能」という話が出てくるかもしれません。
現在、ケアマネジメントにおいて自己負担を求めるかどうかは決まっていません。2026年介護報酬改定に向けての議論として、今後ますます白熱することでしょう。
「生産性向上」には大賛成ですが、課題の内容によっては慎重に議論する必要があると思われます。
介護保険サービスは、公費(保険料・税金)で賄われていることから、一定の制限が設けられています。例えば訪問介護では、仏壇の掃除や犬の散歩などといったサービスは介護保険の対象外とされています。また通所介護の「送迎」についても、基本的には自宅⇔事業所間の移動しか許されていません。
犬の散歩などが保険対象外であることは当然として理解できますが、それにしても実際にご利用者様が在宅生活をする上で、介護保険サービスだけではどうしても賄いきれないところがあります。
保険外サービスを導入することで、場合によっては利用者様の負担を増やしてしまうことも懸念されます。所得の多寡により利用できない方が発生する可能性もあり、ここも慎重に扱う必要はあります。
しかし、工夫一つで実現できることはたくさんあります。実際、通所介護の送迎において、途中で受診のために医療機関に立ち寄るなどの「中抜け」等について、実証実験も行われています。
特区などの仕組みを活用しながら、保険外サービスをどんどん活用できる形にすることは重要です。

今回は、財務省の諮問機関である「財政制度審議会」で議論された内容について取り上げました。介護業界で日々頑張っていらっしゃる皆様においては、日々のサービス提供に手いっぱいという方も多いかもしれません。しかし、今後介護業界はどのような道に進んでいこうとしているのかについて、時間があるときに考えを巡らせ、自社として何ができるのかについてイメージしておくことが必要ではないでしょうか。
介護・診療報酬改定が本年度始まったかと思えば、もう次の改定に関する議論がスタートしています。事業所におかれましては、どんなに忙しくてもこのような情報を積極的にキャッチアップする姿勢を持ちたいものです。