訪問看護における乳幼児加算は、小さな子どもたちへの専門的なケアを評価し、質の高い看護サービスの提供を促進するためのものです。
本記事では、医療的ケア児の現状や乳幼児加算の概要、算定要件などについて、訪問看護に携わる方々に役立つ情報を詳しく解説します。
令和3年に、医療的ケア児の支援に関する法律として「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行されたのをご存知でしょうか?
「医療的ケア児」とは、医学の進歩を背景として、NICU(新生児集中治療室)などに長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のことを言います。
医療的ケア児はここ数年でかなり増えてきており、平成17年からの15年間でその数は2倍になっています。医療的ケア児を育てる保護者の方におかれましては、ご苦労はいかばかりかと察するばかりです。
この状況を受けて、このような医療的ケアを必要とする子どもたちに対してケアを行う訪問看護ステーションの需要が高まっていることは見過ごせないでしょう。

この法律では、医療的ケア児とその家族の生活は「社会全体で支援しなければならない」とされています。
乳幼児加算は、6歳未満の子どもに対する訪問看護の専門性と難しさを考慮して設けられた加算です。
この加算により、乳幼児への質の高い看護サービスの提供が促進され、小さな患者とその家族をより手厚くサポートすることが可能になります。
乳幼児のケアは、いわゆる成人や高齢者のケアと比べて多くの点で異なります。
乳幼児は成長発達の途上にあり、身体の大きさや機能が日々変化します。そのため、常に細心の注意を払いながらケアを行う必要があります。
言語による意思疎通が難しいため、泣き声や表情、体の動きなどから状態を読み取る高度な観察力が求められます。
乳幼児のケアには家族の協力が不可欠です。そのため、家族への指導や精神的サポートも重要な役割となります。
免疫系が未発達なため、感染予防に特に注意を払う必要があります。
これらの特殊性を考慮し、乳幼児加算では通常の訪問看護に加えて算定が認められているというわけです。
乳幼児加算は、2024年診療報酬改定により見直されることとなりました。
以下、乳幼児加算の報酬額や算定要件などを解説いたします。
別に厚生労働大臣が定める者に該当する場合 1800円/日
上記以外の場合 1300円/日
2024年診療報酬改定により、乳幼児加算は新たな区分が追加され、2区分となりました。
具体的には、乳幼児の中でも特に重篤な方(いわゆる医療的ケア児)に対して訪問看護を実施する場合に、高いほうの加算が算定できるようになりました。
「別に厚生労働大臣が定める者に該当する場合」とは、以下のいずれかの状態である利用者となっております。
・超重症児又は準超重症児
・特掲診療料の施設基準等別表7に該当する疾病等の小児
・特掲診療料の施設基準等別表8に該当する小児
以下の表に基づき、判定スコア(各項目の状態が6ヶ月以上続いていること)が10~24点を「準超重症児」となり、25点以上を「超重症児」と定義されます。

これらの乳幼児は、通常の成長発達のサポートに加えて、専門的な医療的ケアを必要とするため、訪問看護の重要性が高くなります。
6歳未満の利用者に対して、訪問看護を提供していること
・乳幼児加算は「1日につき1回限り」算定できること。
乳幼児の利用者様に対して1日複数回訪問を行ったとしても、乳幼児加算の算定は1日に1回のみになっております。
・6歳までではなく「6歳未満」であること。
従って、6歳の誕生日を迎えるまで算定できるということになります。
・6歳の誕生日をもって、当該加算は算定できなくなること。
前項に関連しますが、6月の誕生日を迎えた段階で乳幼児加算は算定できなくなります。
例えば利用者様が7/15に6歳の誕生日を迎えた場合、その前日である7/14までに提供された訪問看護療養費については乳幼児加算が算定できます。
6歳の誕生日以降に提供した訪問看護については算定できなくなります。

乳幼児への訪問看護は、成人や高齢者への看護とは異なり、特殊な知識と技術が求められます。
加算とは直接関係ない話になりますが、ここでは乳幼児訪問看護に携わる看護師に必要とされる専門的な知識と観察力、コミュニケーションスキル、そして家族へのサポートについて解説します。
乳幼児訪問看護では、以下のような専門的な知識と鋭い観察力が求められます。
各月齢・年齢における正常な成長発達の指標を理解し、適切に評価できる能力が必要です。
例えば、生後3ヶ月で首がすわる、7ヶ月で一人座りができるなど、運動発達の目安を把握し、遅れがないかチェックします。
先天性疾患、呼吸器疾患、消化器疾患など、小児特有の疾患について深い理解が必要です。
例えば、先天性心疾患の場合、心不全症状の早期発見や適切な体位管理などの知識が求められます。
乳幼児の体格や臓器の特徴を理解し、それに応じたケアを提供する必要があります。
例えば、乳児は体表面積が大きいため体温調節が難しいことを理解し、適切な保温に注意を払います。
言葉で訴えることができない乳幼児の状態を、表情や動き、皮膚の色など、わずかな変化から読み取る能力が必要です。
例えば、泣き方の変化や活気の低下などから、体調不良を早期に発見できることが重要です。
人工呼吸器や経管栄養ポンプなど、小児用の医療機器の適切な操作と管理能力が求められます。
機器のアラーム設定や、小児の体格に合わせた適切な設定値の調整などが必要です。
乳幼児訪問看護では、患者である乳幼児だけでなく、その家族とのコミュニケーションも非常に重要です。
言葉でのコミュニケーションが難しい乳幼児とは、表情や体の動き、声のトーンなどを通じて信頼関係を築く必要があります。
例えば、優しく話しかけながらゆっくりと近づくなど、乳幼児が安心できるアプローチが重要です。
家族の不安や疑問に丁寧に耳を傾け、分かりやすい言葉で説明する能力が求められます。
医療専門用語をできるだけ避け、イラストや実演を交えながら説明するなど、理解を促す工夫が必要です。
医師、理学療法士、保健師など、他の専門職と円滑に情報共有し、連携する能力が重要です。
例えば、カンファレンスで乳幼児の状態を簡潔かつ正確に報告し、ケアの方向性を話し合うことが求められます。
家族の悩みや不安を受け止め、共感的な態度で接することが大切です。
「大変でしたね」「よく頑張っていますね」など、家族の努力を認める言葉かけも重要です。
乳幼児訪問看護では、患児のケアと同時に、家族全体をサポートすることが求められます。
授乳や排泄ケア、清潔ケアなど、基本的な育児技術を家族に指導します。
例えば、経管栄養を行っている乳児の場合、適切な注入方法や胃瘻の管理方法を丁寧に指導します。
病気や障害のある子どもを育てる家族の不安や悩みに寄り添い、精神的なサポートを提供します。
必要に応じて、同じような状況の家族との交流の機会を提案したり、専門的なカウンセリングを紹介したりします。
利用可能な福祉サービスや支援制度について情報を提供し、適切な資源につなげます。
例えば、障害児福祉手当の申請方法や、地域の療育支援センターの利用方法などを説明します。
家族の休息を確保するため、一時的な入院や短期入所などのレスパイトケアを提案します。
家族の負担が蓄積しないよう、定期的なレスパイトの利用を促します。
病気や障害のある子どものきょうだいへの配慮も重要です。
きょうだい児の心理的ストレスに気を配り、必要に応じて支援を行います。
これらの知識・技術を総合的に活用することで、乳幼児とその家族に寄り添った、質の高い訪問看護を提供することができます。
常に最新の知識を学び、実践を重ねることで、より専門性の高い乳幼児訪問看護のスキルを磨いていくことが重要です。

いケアの提供を促進するための重要な制度です。
本記事では、乳幼児加算の概要から算定要件、メリット、そして関連する研修や資格まで、幅広く解説してきました。
乳幼児に対する訪問看護は、小さな命とその家族の未来を支える重要な役割を担っています。
その現状をしっかり理解することにより、質の高いケアを持続的に提供することができます。
日々の実践を大切にしながら、常に学び、成長し続ける姿勢を持つことが、乳幼児訪問看護の質向上につながります。
一人ひとりの乳幼児とその家族に寄り添い、笑顔あふれる在宅生活を支援していくことが、乳幼児訪問看護の最大の目標です。
この目標に向かって、日々の努力を重ねていきましょう。