訪問看護ステーションの経営者、管理者、訪問看護師の皆様に向けて、「訪問看護医療DX情報活用加算」について詳しく解説します。
この加算の概要、算定要件、導入のメリット、そして現場への影響まで、幅広い観点から分かりやすくお伝えします。
ICTを活用した業務効率化とサービス向上に取り組む際の参考にしていただければ幸いです。
訪問看護における訪問看護医療DX情報活用加算とは、オンライン資格確認によって利用者の診療情報を取得した上で、訪問看護の実施に関する計画的な管理を行った場合に算定できる加算で、2024年6月の診療報酬改定に伴い新たに導入されたものです。
厚生労働大臣が定める基準に適合しているものとして地方厚生局に届け出た訪問看護ステーションの看護師等が、オンライン資格確認により利用者の診療情報を取得し訪問看護の実施に関する計画的な管理を行うことが必要になります。
訪問看護医療DX情報活用加算が導入された背景には、医療分野全体でのデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進があります。
少子高齢化が進む日本社会において、限られた医療資源を効率的に活用し、質の高い医療・介護サービスを提供することが急務となっています。
医療DXは、単にアナログをデジタルに置き換えるだけでなく、デジタル技術を活用して業務プロセスを根本から変革し、新たな価値を創造することを目指しています。
訪問看護の分野においても、ICTの活用により以下のような変革が期待されています。
1. ペーパーレス化による業務効率の向上
2. リアルタイムな情報共有による多職種連携の強化
3. データ分析によるケアの質の向上と個別化
4. 遠隔でのモニタリングや指導の実現
例えば、訪問看護師がタブレットを使用して患者の状態をリアルタイムに記録し、その情報を即座に主治医や介護支援専門員と共有することで、迅速な対応や適切な治療方針の決定が可能になります。
また、蓄積されたデータを分析することで、個々の患者さんに最適なケアプランの立案や、地域全体の健康課題の把握にも役立てることができます。
このように、医療DXの推進は、訪問看護の質を向上させるだけでなく、地域包括ケアシステムの構築や持続可能な医療体制の確立にも寄与する重要な取り組みなのです。
50円(利用者1名につき月1回を限度に算定可能)
訪問看護医療DX情報活用加算の算定には、前述した地方厚生局への届出に先立ち、下記の「施設基準」を満たしていなければなりません。
・厚生労働省が発布した「訪問看護療養費及び公費負担医療に関する費用の請求に関する命令第一条」に規定するオンライン請求を行っていること。
※これは要するに「法令省令に基づいてオンライン請求を行っていること」という意味です。
・「健康保険法第三条第十三項」に規定する「オンライン資格確認」を行う体制を有していること
・医療DX推進の体制に関する事項や、質の高い訪問看護を実施するための十分な情報を取得・活用して訪問看護を行うことについて、訪問看護ステーションの見やすい場所に掲示していること(情報開示)
・上記について、原則としてウェブサイトに掲載していること
となります。
訪問看護ステーションの所在地を管轄する地方厚生(支)局長に対し、「別紙様式10」の届出書を用いて届出を行います。
これまで訪問看護療養費(医療保険)では、介護保険と違って保険請求を「紙」で行っておりました。
請求ソフトから打ち出された紙のレセプトを印刷し、仕分けをして「国民健康保険団体連合会」あるいは「社会保険診療報酬支払基金」に毎月10日締め切りで郵送するという方法が採用されていました。
しかしこの方法は事務作業が膨大かつ煩雑であり、ミス等による返戻が多発してきました。
介護保険についてはオンライン請求(伝送)が導入されており、請求月の翌月には支払・保留返戻の決定がなされます。
しかし医療保険については「紙」請求がメインですので、審査がどうしても遅れがちでした。
実際、請求後数か月経過して返戻通知が届くということも頻繁に発生しています。
こうした問題を解決するために、医療保険の請求専用のネットワーク及び端末を駆使して行う「オンラインによる請求」が実現されるに至ったわけです。
オンラインによる資格確認は、利用者のご自宅に伺い、訪問看護師が専用端末(モバイル端末)等にて、ご利用者様のマイナンバーカードを読み取ることで利用者の資格を確認することです。
読み取った保険情報を、事業所に帰ったあとに「システム」に転送させます。
それにより、基本的に手入力をしなくても済む形になります。
この方法で資格確認をすることにより、請求業務の効率化が図られるわけですが、メリットはそれに留まりません。
厚生労働省では、オンライン資格確認を行うことにより「診療・薬剤情報」を医療機関や介護事業所等で共有することが可能となり、質の高いサービスの提供にも寄与すると説いています。
今後、訪問看護ステーションにおいてはオンライン請求・資格確認の導入が義務付けられます。
本コラムが公開される現時点では「経過措置」が設けられていますが、2024年12月2日より完全義務化されることになっております。
「知らない」「私たちは行わない」という考えは通用せず、何も対策を講じていない事業所は一刻も早く対応しなければなりません。
今回取り上げた「訪問看護医療DX情報活用加算」は、上述しましたオンライン請求・オンライン資格確認を導入し運用するステーションに対して評価する加算となります。
本コラム公開現在で、まだオンライン請求や資格確認を実施できていないステーションもあるかもしれませんが、本加算の金額の多寡以上に請求に関する事務負担が大幅に軽減できることが期待できます。
何度も申し上げているように、訪問看護医療DX情報活用加算の主な目的は、ICTの活用を通じて訪問看護ステーションの業務効率化とサービス向上を実現することです。
デジタル化により、紙の記録や報告書の作成、保管にかかる時間と労力を大幅に削減します。
これにより、訪問看護師が本来の業務であるケアに集中できる時間が増えます。
多職種間でリアルタイムに情報を共有することで、患者の状態変化に迅速に対応できるようになります。
例えば、訪問時に気になる症状を発見した場合、その場で主治医に連絡し、適切な指示を仰ぐことができます。
デジタルデータの蓄積と分析により、個々の患者に最適なケアプランの立案や、ケアの効果測定が容易になります。
これにより、エビデンスに基づいた質の高いケアの提供が可能になります。
移動中や訪問先でのデータ入力が可能になることで、残業時間の削減や労働環境の改善につながります。
これは、訪問看護師の離職防止や人材確保にも寄与します。
タブレットなどを使用して、患者や家族に視覚的な説明を行ったり、遠隔でのコミュニケーションを取ったりすることが可能になります。
これにより、より分かりやすい説明や、きめ細かなサポートが実現します。
訪問看護医療DX情報活用加算は、訪問看護ステーションにおけるICT活用を促進し、業務効率化とサービス品質向上を目指す重要な加算であり、具体的には「オンライン資格確認」「オンライン請求」を行う訪問看護ステーションについて評価するものです。
ここで申し上げたいのは、この加算を算定することによる「収益の増大」に留まらないということです。
日本の介護・医療分野は、他業種と異なりICTの活用やDX推進について大きく後れをとっているといわれます。
厚生労働省も、遅ればせながらもこのことを重く受け止め、その第一歩を踏み出そうとしています。
今こそ、介護・医療分野も「生産性向上」に軸足を向けるときです。
訪問看護ステーションの経営者、管理者、そして現場の訪問看護師の皆様には、この変革の波を前向きに捉え、患者さんやご家族、そして地域全体により良いケアを提供するための手段として真剣に考えるべきではないでしょうか。
そして、この取り組みを通じて、訪問看護の価値がより広く社会に認知され、訪問看護師の社会的地位向上と待遇改善につながることを期待しています。
訪問看護医療DX情報活用加算は、オンライン請求・資格確認が進んでいくことで、これから算定されるステーションも増えることでしょう。今後も制度の改定や新たな技術の登場など、様々な変化が予想されます。
常に最新の情報にアンテナを張り、柔軟に対応していくことが重要です。
そして、この変革の中心にいるのは他でもない、現場の訪問看護師の皆様です。皆様の経験と知恵を活かし、テクノロジーの力も借りながら、より良い在宅医療・介護の実現に向けて、共に歩んでいきましょう。