介護事業所で深刻な問題となる「黒字倒産」

こんにちは!

コロナ禍がようやく落ち着き、経済活動もほぼ元の状態に戻ってきたといってよい状況です。しかしながら、コロナ禍においては企業に対して様々な救済措置を講じてきたものの、それが落ち着いてから企業倒産が増えてきているというデータもあります。

介護事業所においても同様で、ここへきて法人の倒産が増えているのが現状です。

なかでも、会計上は黒字にもかかわらず経営が行き詰まり、倒産の憂き目に遭ってしまう会社も後を絶ちません。

今回は「黒字倒産」の現状とともに、黒字倒産に陥らないようにするためにはどうすればよいかについて解説します。是非最後までお付き合いくださいませ。

黒字倒産とは

企業間取引(BtoB)においては、実際に商品を販売したりサービスを提供したりしても、その場で代金を受け取れるとは限らず、数カ月後にならないと現金を受け取ることができない場合があります。介護サービスなどはまさにこのパターンです(後述)。

商品・あるいはサービスを販売してから実際に現金を受け取るまでの間に、仕入代金、人件費、借入返済などの支払いに必要な資金が不足し、ショートしてしまう危険性があります。

このように、帳簿上は利益が出ているにもかかわらず、支払いに必要な資金が不足し、倒産してしまうことを「黒字倒産」と言います。

特に成長期にある会社では、急激な売上げの伸びにともなって売掛金や在庫が膨らむため、帳簿上では黒字にもかかわらず、資金繰りが追い付かずに倒産してしまうことがあるわけです。

介護事業における倒産の実態

介護報酬や診療報酬の場合は、まさにこの黒字倒産というリスクにさらされます。

なぜなら介護・診療報酬の入金サイトが非常に長いからです。

基本的に介護・診療報酬は、サービスを提供した月の翌々月に入金される仕組みになっております。

スタッフの給与や企業への支払いについては、報酬の入金より早く行われるはずです。ですので、必然的に「資金繰り」を考えなくてはならなくなります。これは非常に悩ましい話です。

また、介護事業者は人手不足に加え、競合や物価高、エネルギーコストの高騰等も相まって、非常に厳しい状況にさらされています。

東京商工リサーチが行った調査によりますと、2023年の「老人福祉・介護事業」の倒産は122件で過去2番目を記録したとのこと。このうち、「訪問介護事業者」の倒産は過去最多を大幅に上回る67件に達しています。また、倒産以外でも事業を停止した介護事業者の休廃業・解散が510件と過去最多を記録しております。

先程も申し上げましたが、介護事業特有の報酬請求・支払いサイトの状況だけでなく、サービスによっては競争激化による淘汰もありますし、コスト高による経営不振も否定できません。

特に在宅系を中心に人手不足が深刻で、訪問介護にいたっては求人倍率が10倍を優に超える状況となっています。利用者様は確保できるのに、人材がいないためにご利用を断らざるを得ないという話は枚挙に暇がありません。

結果的に、会計上は利益が出ているにもかかわらず、人材不足により閉鎖せざるを得ないという状況になってしまいます。これは筆者も実際に何度も聞いたことがある話でもあります。

国もこの状況に手をこまねいているわけではなく、物価高やエネルギーコストの上昇や人材不足の解消に少しでも寄与しようと、介護報酬のプラス改定に踏み切っています。

実際に、2024年度の介護報酬は1.59%のプラス改定となったことは、皆様もご承知のことと思います。

しかしこの程度の報酬改定では、介護業界の厳しい経営状況を抜本的に解決するほどのインパクトはありません。実際に人手不足や競合激化が経営安定の前に立ち塞がっているわけです。
超高齢社会が叫ばれて久しいわけですが、介護業界はすでに「冬の時代」に突入しかけています。東京商工リサーチの調査報告では、業績のジリ貧や先行きが見通せない小規模事業者を中心に、年間600社強が市場から退出しているという、非常にショッキングな評価が紹介されています。

倒産しないために必要な「キャッシュフロー」という考え方

黒字倒産が発生してしまう原因の大きな部分として、先程も触れました通り「キャッシュがショートしてしまう」ことが存在します。

「キャッシュフロー経営」をもっと重視すべきであるということは、今や多くの企業では身に染みて理解されていることと思われます。

キャッシュフローは日本語で「現金収支」などと呼ばれ、一定期間内の現金の流れ(収入と支出)のことを指します。上場企業は「キャッシュフロー計算書」の作成・開示が義務付けられていますが、非上場企業においてもお金の流れを把握するために非常に重要なものです。

キャッシュフロー計算書では「営業キャッシュフロー(営業CF)」「投資キャッシュフロー(投資CF)」「財務キャッシュフロー(財務CF)」が示されます。介護法人でも「キャッシュフロー計算書」を作成されているところは多いのではないでしょうか。

企業のキャッシュ状況を示す指標として、事業活動で稼いだキャッシュ(営業CF)から、設備投資などによる支出(投資CF)を差し引いたものが、企業が自由に使えるキャッシュ(「フリーキャッシュフロー(フリーCF)」)があります。

このフリーCFが多ければ黒字倒産のリスクは小さくなります。

もちろん計画的にCFを安定させていれば話は別で、フリーCFが少ないゆえに黒字倒産に直結するわけではありませんが、フリーCFが多ければ事業環境の変化にも対応できる余力があると考えられ、大きな安心材料になり得ます。

黒字倒産に対処するには?

ここでは、いわゆる黒字倒産に陥らないようにするために、日頃からどのようなことに留意すべきなのかについて紹介します。

1.入出金状況を把握する

商品を販売したら「いつまでに」「いくら」の入金があるのか、商品を仕入れたら「いつまでに」「いくら」の支払いが必要になるのかをしっかり把握することです。

これを行わない状況を「どんぶり勘定」といいます。

そうならないようにするために、資金繰り表を作成して、自社の入出金状況をきちんと把握する必要があります。

特に、売掛金の回収遅延や回収不能が発生すると資金繰りは逼迫するため、入金状況はこまめにチェックすることが大切です。経営が安定している企業は、すべからく入金チェックを行っています。

2.回収サイトは短く、支払サイトは長く

これはある意味「鉄則」ではありますが、商品の販売代金はなるべく短いサイトで回収し、仕入れ代金の支払いはできるだけ長いサイトにすることで資金繰りは楽になります。

起業して間もない会社は一般的に信用力が低いため、有利な決済条件を結ぶことは難しいですが、回収では前受とし、支払いでは後払いや分割払いなどを検討し、取引先に交渉してみましょう。

前述した通り、介護・診療報酬はサービスを提供してから入金になるまでに結構時間がかかります。ですので回収サイトを短くするのは難しいかもしれません。

ある程度の現金預金を用意しておくことが必要でしょう。

3.過剰在庫を避ける

業種によっては、一定の商品在庫の保有が必要になるでしょう。

しかし、在庫は販売して現金化されるまでに時間がかかります。特に過剰な在庫を抱えてしまうと、売れ残りのリスクもあり、大きな資金負担となります。適切な在庫管理を行い、資金繰りに無理が生じないようにしましょう。

介護や医療はサービス業ですので、流通業などと比べれば「在庫」はあまり関連性がないかもしれませんが、それでもおむつやディスポ関連の品物であれば、多少は在庫しているでしょう。それも過剰になり過ぎると資金繰りに多少は影響するものです。

「過剰在庫の抑制」という考え方は、介護業界の人間も知っていく必要があるかと思います。

4.資金調達力を強化する

資金不足に陥らないように、必要な時に必要な資金を調達できる体制を事前に準備しておくことも大切です。

そのためには日頃から取引先金融機関に自社の情報を提供して信頼性を高めておくことが重要です。年に1度の決算時だけでなく、自社が日頃からどのような取り組みをしているのかを金融機関担当者に伝えることは非常に有効です。

また、資金調達先の多様化を図る目的で、できれば複数の金融機関と取引することも一案でしょう。さらに必要に応じて、補助金や助成金を活用することも有効かもしれません。

5.キャッシュフロー経営を心掛ける

これは先程もご案内している通りです。

帳簿上の損益と実際のお金の流れは必ずしも一致しているわけではありません。特に資金繰りが安定しない起業直後は、帳簿上の売上や利益だけでなく、キャッシュフローがプラスになるような経営を心掛けるようにしましょう。

会計上は黒字でも、資金が足りなくなれば企業は倒産してしまいます。

キャッシュが底をつけば経営の継続はできません。

介護事業所におかれましては、せっかくよいサービスを提供しているのに「黒字倒産」という憂き目に遭わないために、いろいろ留意していかなくてはなりませんね。

今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

参考サイト

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