こんにちは!
いわゆる「同一建物」に居住する方に対して介護・医療サービスを提供する場合、基本報酬から減額するというルールがあります。これを「同一建物減算」とよびます。
介護保険においては数年前から訪問系サービスについてルール化されており、居宅介護支援(ケアマネジャーのサービス)でも2024年度介護報酬改定で、同一建物に居住する利用者へのケアマネジメントについて、要件に該当した場合には基本報酬を減算する措置が講じられています。
今回は「訪問看護の同一建物減算」について解説します。ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
私たちは日常「同一建物」といっていますが、正式には「同一敷地内建物等」とよびます。
訪問看護事業所を例にしますと(考え方は訪問介護等と同じです)、「当該事業所と同一の敷地内の建物、隣接する敷地内の建物、同一の建物」となります。
簡単にいえば、「効率的なサービスの提供が可能な建物」ということになりますね。
ただ一口に「隣接する敷地」といっても、広大な敷地に複数の建物が点在するケースは対象になりません。また隣接する敷地であっても、道路や河川などで敷地が隔たれており、迂回などが必要な場合等は、サービスの効率化に繋がらないような位置関係の建物となるため減算の対象とならないことになります。
その昔、一般居宅(戸建てなど)に訪問する際の報酬と、有料老人ホームなどに入居する方に訪問する際の報酬は、全く同じ金額でした。これは訪問診療(在宅療養支援診療所等が行う訪問診療サービス)も同様でした。
両者が全く同じ報酬額であれば、どちらが効率よく稼げるかといえば当然ながら「後者」になります。ですので訪問診療や訪問看護、訪問介護の在宅系サービスでは、施設を中心に1日に20人も30人も診療等を行って、一般在宅と同じ報酬を得るということが普通に行われており、ルール上も認められていました。
しかし両者が同じ報酬設定になっているというのは、本来おかしな話です。
介護給付費分科会(介護報酬を審議する機関)や中医協(診療報酬を審議する機関)では、当時このことを非常に問題視していました。
具体的な変遷については省略しますが、要は「一般在宅訪問」と「施設訪問」の報酬を適正化しようという動きになったわけです。具体的には、より効率的に訪問できる施設訪問については一般在宅の場合と報酬額に差をつけ、「同一建物減算」という形で見直した、ということです。
①同一敷地内建物等以外の同一建物で、1月あたりの利用者が20人以上居住する建物の場合
→所定単位数の90/100
②同一敷地内建物等(下記③の場合を除く)
→所定単位数の90/100
③同一敷地内建物等で1月あたりの利用者が50人以上居住する建物の場合
→所定単位数の85/100
・事業所と同一敷地内建物等に居住する利用者
・20人以上利用者が居住する集合住宅等に居住する利用者
前者の場合は利用者1名から減算となり、後者の場合は利用者が20名以上となった場合に減算が発生することになります。
医療保険において、同一建物居住者に対して提供される訪問看護基本療養費は下記の通りとなります。
尚、同一建物居住者への訪問であっても、1日の訪問が1名のみの場合は「訪問看護基本療養費Ⅰ」となる点に注意が必要です(一般居宅への訪問と同じ扱い)。
また医療保険の場合、1日に当該建物居住者に対して2名以上訪問した場合に「基本療養費Ⅱ」というコードが適用されますが、減算となるのは「1日に当該建物居住者への訪問が3名以上」となった場合になります。
ちなみに、「訪問看護基本療養費(Ⅲ)」とは、外泊中の入院患者に対して訪問看護を行った場合に算定される療養費になります(精神科訪問看護の場合も同様)。
同一日に2人・週3日目まで 5,550円/1日
同一日に2人・週4日目以降 6,550円/1日
同一日に3人以上・週3日目まで 2,780円/1日
同一日に3人以上・週4日目以降
同一日に2人・週3日目まで 5,050円/1日
同一日に2人・週4日目以降 6,050円/1日
同一日に3人以上・週3日目まで 2,530円/1日
同一日に3人以上・週4日目以降 3,030円/1日
精神科訪問看護についても、同一建物居住者の考え方は基本的に通常の訪問看護療養費と変わりません。
同一日に2人・週3日目まで・30分未満 4,250円/1日
同一日に2人・週3日目まで・30分以上 5,550円/1日
同一日に2人・週4日目以上・30分未満 5,100円/1日
同一日に2人・週4日目以上・30分以上 6,550円/1日
同一日に3人以上・週3日目まで・30分未満 2,130円/1日
同一日に3人以上・週3日目まで・30分以上 2,780円/1日
同一日に3人以上・週4日目以上・30分未満 2,550円/1日
同一日に3人以上・週4日目以上・30分以上 3,280円/1日
同一日に2人・週3日目まで・30分未満 3,870円/1日
同一日に2人・週3日目まで・30分以上 5,050円/1日
同一日に2人・週4日目以上・30分未満 4,720円/1日
同一日に2人・週4日目以上・30分以上 6,050円/1日
同一日に3人以上・週3日目まで・30分未満 1,940円/1日
同一日に3人以上・週3日目まで・30分以上 2,530円/1日
同一日に3人以上・週4日目以上・30分未満 2,360円/1日
同一日に3人以上・週4日目以上・30分以上 3,030円/1日
今回の診療報酬改定では、「訪問看護管理療養費(月の2回目以降)」の算定要件・施設基準等が大きく変更されました。
具体的には、月の2日目以降の訪問における訪問看護管理療養費の区分が新設されました。以下の条件に該当する場合は、訪問看護管理療養費1(3000円/1日)を算定することになります。
①訪問看護ステーションの利用者のうち、同一建物居住者の占める割合が7割未満であること
②上記①を満たした上で、下記のいずれかに該当すること
・別表第7、第8に該当する者への訪問看護について相当な実績がある
・精神科訪問看護基本療養費を算定する利用者のうち、GAF尺度:40以下の利用者の数が月に5人以上である
逆に、訪問看護ステーションの利用者のうち、同一建物居住者の占める割合が7割以上である場合は、低いほうの区分(訪問看護看護療養費2 2500円/1日)を算定することになります。また、同一建物居住者の占める割合が7割未満であっても、上記②のいずれも該当しない場合にも「訪問看護管理療養費2」を算定することとなります。
ただ、訪問看護管理療養費に関しては経過措置が設けられました。
2024年(令和6年)3月31日の時点で指定訪問看護事業を行う事業所については、同年9月30日までは訪問看護管理療養費1の基準に該当するものとみなされます。
ただし、地方港政局への届出が必要となります(届け出はすでに締め切られています)。
今回の訪問看護管理療養費(月の2回目以降の訪問)の改定により、同一建物居住者への訪問が一定以上存在する事業所にとっては大変な痛手となりました。
国は訪問看護ステーションに対し、重度者への対応だけでなく「一般在宅への訪問」を強く求める格好になったといっても過言ではないでしょう。
事業者におかれましては、訪問看護師の負担軽減とともに事業所運営の見直しを行っていく時が、いよいよやってきたと言えるかもしれません。
今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。